謎が謎を呼ぶ、長編ファンタジー小説、前編。
就職を機に上京した橘子は良き先輩社員に恵まれ、
消息不明だった幼馴染・清躬との再会も果たす。
一方、清躬の戀人・紀理子は忽然と姿を消す。
そして、橘子も謎の屋敷の者たちによって危機に陥る。
「希望は蜘蛛の糸に過ぎない」と言われた橘子だったが――
就職を機に上京した橘子は幼馴染・清躬の恋人であるという紀理子と出会い、次第に打ち解けていく。「私のお友達になっていただけます?」紀理子にそう言われた橘子は……。山本杜紫樹氏の著書『相生 上』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、謎が謎を呼ぶ長編ファンタジー小説をご紹介します。
その言葉をきいて、橘子は少しどきっとした。紀理子さんが自分はとてもかなわないと感じてしまったら大變だ。唯でさえ戀人としての自信が揺らぎがちにおもえるのに。橘子は慌ててフォローした。
「あ、でも、ずっと年上だし」
「えっ、でも二十歳くらいでしょ、この頃?」
「あ、うん、大学生と言われてたから」
あの頃の和華子さんと今の自分で比較対象としてまた考えてしまわれたらと、橘子は気を揉んだ。フォローしたつもりが、かえってぐあいがわるくなったかもしれない。和華子さんの写真を持ってきたことは逆効果だったろうか。和華子さんのことはずっと昔のことではあるけれども、清躬くんには今も和華子さんの存在が大きくて、紀理子さんがその影を感じているとしたら……
「この、和華子さんという方のこと、もう少し教えてくださいますか?」
紀理子さんの催促に、橘子はどういう話をしたものかと少し考えた。下手な物言いをしたら、かの女は一層自信をなくして、清躬くんとの関係での苦しみを深くしてしまうかもしれない。でも、あまり考えても不自然になる。橘子は素直に話を始めた。
【相生 上 登場人物】
檍原橘子 20歳。地方の短大を出て就職で上京。
檍原清躬 20歳。橘子の幼馴染。特殊な絵の才能の持ち主。
清躬の父
清躬の母
棟方紀理子 20歳。大学生。清躬の戀こい人びとだが、別離した。
津島さん棟方家のメイド。
小鳥井和華子 橘子、清躬の小学校時代の憬あこがれのおねえさん。
和歌木先生 清躬の小学校四年生の時の担任の先生。
杵島紗依里 一時期、清躬の親がわりとなった女性。
鳥上海祢子 橘子の職場の先輩(教育指導係)。
緋之川鐵仁 橘子の職場の先輩。
松柏さん 緋之川の戀人。
寮監さん夫妻 橘子の住む寮の管理人夫妻。
会社の健康管理室の看護師
小稲羽鳴海(ナルちゃん)9歳。清躬となかよしの利発な子。
小稲羽梓紗 鳴海の母。同居はしていないが、神麗守の母でもある。
和邇青年の想い人 梓紗の母。和邇の青年時代に戀い憬れたひと。
神麗守(小稲羽神陽農) 15歳。和邇家で養育されている。
紅麗緒 15歳。神麗守と一緒にくらしている。
和邇のおじさん 資産家。東京に大きな屋敷を構えている。
根雨詩真音(ネマ) 20歳。大学生。彪のグループメンバー。詩真音の母和邇家の家政を担当。
隠綺梛藝佐 23歳。和邇家で、神麗守、紅麗緒の養育を担当。梛藝佐の姉医大を出て、病院勤務。和邇家の主治医。
和多のおじさん、おばさん 和邇の元部下。建設会社などを経営。
楠石のおじさん、おばさん 和邇家の車まわりや庭の手入れを担当。
稲倉のおじさん、おばさん 和邇家の賄を担当。
香納美(ノカ) 20歳。稲倉夫妻の子。大学生。彪のグループメンバー。
柘植くん 香納美の戀人。彪のグループメンバー。
神上彪 詩真音から「にいさん」と呼ばれている。
桁木紡羽 彪のグループメンバー。伝説の武道家の娘。
烏栖埜美箏 彪のグループメンバー。扮装の名人。