車を降り、菜の花畑から海が見えるところまで歩いた。彼女は一眼レフのカメラを持って降りてきた。私はまだ咲いていない菜の花畑を指差して、

「ここ一面が菜の花で一杯になるんだ」

「そうなんだー、見てみたいわ」

彼女は笑顔で言った。二人で海を眺めながら、私は昔父親とここによく来たことを話した。私は父が昔聞かせてくれた話を思い出し、まだ見ぬ果てない世界を、いつか彼女と一緒に見たいと思った。

だから私は海の向こうを指差して、

「いつか遠いところに一緒にいこうよ」

そう彼女に誘い文句を言ったのだが、何となく乗り気のない返事が返ってきて、とても残念な気持ちになったことを憶えている。

そのあと彼女はカメラを海原に向けて写真を何枚か撮っていた。菜の花畑の西側に大きな木が一本立っていた。私はそれを見て思いつき、彼女にこうも言った。

「あの木の根元に、二人でタイムカプセル埋めない?」

「えー、面白そう」

彼女はそう言ってくれた。私は彼女に対しての気持ちが大きくなっていた。だから彼女との何らかの「約束」を作りたい、その一心だったのかもしれない。

そんな話をしているとき、

「あっ! ツバメ」

彼女は一羽のツバメが飛んでいるのを見つけ、すぐにカメラを構え、追いながらシャッターをきっていた。ツバメの姿が見えなくなり、彼女は不思議そうに、

「まだツバメいるんだー、南にいかんのかな?」

「日本で越冬するツバメもいるって言うしね、それかこれからいくのかな?」

「そうなん? 知らんかった」

「そろそろいこうか。また、菜の花が咲く時期に来よう」

私はまた誘い文句を言い、岬へと向かったのだった。岬では海を眺めながら灯台のあるところまで遊歩道を歩いた。たまにすれ違うカップルが手を繋ぐのを見て、私は羨ましく手を繋ぎたい気持ちで一杯だった。

しかし私と彼女はまだ、カップルではないのだ。

「まだ」という言葉に期待を添えながら、自分に言い聞かせた。そんな私をよそに、彼女はカメラを覗きながら撮りたい景色を探していた。

「ここいいわ~」

そう言いながらレンズを覗く彼女。私はその景色よりレンズを覗く彼女の横顔を見ていた。

海からの潮風で彼女の髪がなびいていた。

※本記事は、2021年1月刊行の書籍『踏み潰された、菜の花畑』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。