「今後とも私でお役に立てることがあればご遠慮なさらず。そうそう、最後に、大切なことを忘れるところでした。私が持っているフェラーラの絵をお見せしませんとね。何しろこの絵は二十八点の中で最も古い絵ですからな。《緋色を背景にする女の肖像―災難の終焉への感謝》と名付けられた五十号の絵です。

この絵もアンナさんの横顔を描いていましてね。素晴らしい色彩感覚。巧みな構成。そして類まれなテクニック。当時、衝撃的な出会いをした例の絵ですよ。天才画家フェラーラの誕生です。さあこちらへどうぞ」

そう言いながら、コジモは左側の壁の隅にある一枚の扉を指すと、自ら先にたって扉を開き、エリザベスと宗像を内部へ招き入れた。それは五メートルほどの幅で、奥行きが三十メートルもあるような細長い部屋だった。

もともと会長室に隣接した幅広の廊下を、その後改造して作った空間と思われた。そこでは真っ赤なスタッコの塗り壁に三、四十点ほどの絵が展示されていた。これがコジモ個人の展示室なのか?

「ほとんどの絵は倉庫に保管してありましてね、ここは、私だけのささやかな美術館というわけです。どうぞゆっくりご覧下さい」