石川はいきなり指名されたので〝ドキッ〟としたが、自工場の生産状況について説明を始めた。

〈石川〉本日は自動表面実装装置(SMT)は4ラインフル稼働しています。特にトラブルもなく順調に運転していました。

各ラインとも数回のチョコ停があったようですが、軽微なもので普段と特に変わったものではありません。今日は2時間残業の予定でしたが台風の影響で定時じまいとしました。

手挿入ラインも2ラインフル稼働です。自動半田装置を出たところの検査で、チップ挿入忘れが8枚ほど出ていました。8枚という数字は特別多いものではなく通常ペースです。

検査ラインはベテランの検査員が担当しています。本日はここでの不具合検出はありませんでした。以上が本日の生産状況の概要です。

私の目からしますと特別に何か問題となる箇所は見あたらないのですが、何か改善するところ、お気付きの点がありましたらぜひ教えて頂きたいと思います。

石川の感覚からすると、必要な設備・道具を使い、必要な人員を配置し、納期に遅れることなく生産している。これで赤字ということは、売上高、すなわち社内の付け替え価格の設定に起因しているのではないかとさえ思っている。

渡辺、田代両係長もコスト意識が薄く、何か節約できるものはあるのかと考えようとしているが、何も思い浮かばなかった。加工工場及び組立工場についても同様にコスト低減につながる意見は全く出てこなかった。

会社全体としても、過去のコスト低減策というものは、調達の取引先の変更によることくらいで、根本的な取組の経験は皆無に等しかった。

つまり、現場は本日の予定数量が出来上がれば正常という感覚が長年〝サビ〟のように身に付いた状態であった。とはいっても基盤製造部門としては何らかの方策を見出し、6カ月後には黒字化の目途が立つほどの成果を上げなければならない。

重苦しい雰囲気が漂い、皆下を向いて黙り込んでいた。

製造部長の山田はこのようになることを予想していたのかおもむろに口を開いた。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『企業覚醒』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。