大きな声を出す詩織。詩織を見るほかの家族。血相を変えて隆の病室に入ってくる伊藤家のみんな。

「隆、大丈夫? 朝早いんだから、大学の授業終わってから荷運びのバイトよりもっと楽なバイトすればいいのに」

不安な顔の詩織。

「バイト代がいいからね」

「大兄ちゃん」

「心配かけたな。荷物を運んでいるフォークリフトから足の上に荷物が落ちてね。骨も折れてないし、大げさなんだよ」

「不幸中の幸いだったな」

と良助。

「良かった!」

と安堵の表情になる健太。

「健太もシードがとれて全日本ノービス選手権に出れるし、これからだからな」

健太は泣いている。それを見た詩織が、

「何、健太、泣いているのよ」

「だって、みんなに迷惑かけてるから」

「迷惑なんてかかってないぞ。健太の夢はうちの家族の夢でもあるんだから」

と良助。

「そうだ。お前は何も心配しなくていい」

と健太の肩をたたく忠。

「兄ちゃんたちもいつも健太を応援してるから思い切ってスケートやれよ」

ますます激しく泣く健太。

続く…

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『氷彗星のカルテット』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。