ある心残り

そして救急搬送の翌日、Eさんは自宅に帰ることとなり、私は病院までEさんを迎えに行きました。病室で声をかけると、ちゃんとした応答が返ってきましたが疲れた様子でした。その時点で私は、今回は何かを喉に詰まらせた偶発的な出来事をきっかけに、呼吸が一時的にできなくなったのだろうと考え、Eさんが自宅に帰られてから少し時間を使って、人工呼吸器装着について話し合いを持とうと考えていました。

しかし病院から自宅へ帰る介護タクシーの車内で、その甘い考えは完全に否定されてしまいました。Eさんは吸引がなければ気道の小さな痰でさえ出せなかったのです。この状態で家に帰ることは「死」を意味します。Eさんを何とか自宅に運び込み、本人、奧さん、娘さんに現状を説明し、このままでは死に至ることを訴えました。

「今自宅に到着したばかりですが、今すぐにでも病院に引き返して、人工呼吸器を着けませんか? そうすれば生命は救えます!!」と訴えました。

しかしその答えは「人工呼吸器は装着しない」でした。

Eさんは長い長い夜の中で、いつものように考えに考え、この結論を出したことを私は悟りました。Eさんはその日の夕方、家族に見守られながら旅立ちました。主治医がもっと先を見通せていたら、もう少し決定に関して時間的余裕を持てたのでは……という後悔でいっぱいです。