来客

「藤七郎が――藤吉だというのか?」

「はい、――私の見間違いでなければ、ですが」

与七とお吉が藤七郎とお幸を観察するようになって半月が経った。

今日は近くで祭りがあるということで、お幸はお菊と藤七郎の三人で出かけていた。

二人の仲睦まじい様子は見ていてとても心が和むものであり、似合いの夫婦になるのではないかと仲を認めようとした矢先のことだった。

お菊が洗い場で誰かの落とし物のようだと一つの守り袋を拾ってきた。その守り袋はお吉に渡され、お吉は持ち主を調べようと守り袋の中身を確認してみた。その中には、〝藤吉〟と刺繍された布が入っていた。

藤吉とは、十六年前に里子へと出したお幸の双子の兄だ。

兄は鬼子と忌み嫌われており、お幸――当時は美代、という名であった――が、近江屋の跡取りとして残され、兄である藤吉は里子に出されたのであった。

何の因果であろうか、お吉はその守り袋を見て、藤吉が復讐のために近江屋へ戻ってきて、あまつさえ実の妹と知りながら、お幸が藤七郎に向ける淡い恋心を利用して近づき、契りを交わそうとしている、と考えたのだ。

そのことを直に尋ねたわけではないが、自分たちが過去に藤七郎や二人の母親に対してしたことについて後ろめたい気持ちを持っていたからこそ、聞くことができないのであった。

「あの守り袋はお弓が藤吉とお幸に持たせたものだ。それを持っていたということは……そういうことだろう」

「でもね、あなた。藤吉を里子に出すときにその話はしていませんよ」

「――わからんだろう、佐助がうっかり漏らしたかもしれないじゃないか」

「そうですねぇ」

佐助というのは近江屋の下働きで、当時、藤吉を里子に出す際手引きをした男である。とても情に厚く、感情移入してしまうところがあるが、仕事はしっかりとこなす責任感の強い人間だったので、与七たちの信頼も厚かった。

「今更、佐助に聞くまでもないだろう。……いいかね、これは私とお前だけの秘密だよ」

「――わかりました」

与七とお吉は頷いて、この話は二人だけの秘密ということになった。