(4)主体論(自己決定性)  すべては、自分が決めたことである

アドラーは、「人間は自分自身の人生を描く画家である。」(『アドラー心理学教科書』)と喩えているように、人間は、自分の人生の主人公です。真っ白なキャンバスに絵を描くイメージです(図6)。

 

そうでなければ、誰が、自分のために生きてくれるのでしょうか。

アドラーは、「自分の経験によって決定されるのではなく、経験に与える意味によって、自らを決定するのである。(中略)意味は状況によって決定されるのではない。われわれが状況に与える意味によって、自らを決定するのである。」(『人生の意味の心理学』(上))と述べているように、経験に与えた意味によって自己決定をすることは、認知的主体論と筆者は捉えています。

アドラー心理学の「主体」は、「心と身体の機能の全て」と捉えていますので、主体論と全体論は、この点で関連性があります。

主体論では、人間は、自分の人生を主体的に決定でき(自己決定性)、自分の未来を創造できると考えます。決して人間は、環境や過去の出来事の犠牲者ではありません。自分をつくるのも自分も変えるのもすべて自分です。自分の人生は、自分で切り拓くことができます。これは、目的論の考え方と同じですので、目的的主体論と筆者は捉えています。

主体論と相反する考え方は、決定論や運命論です。決定論では、環境や過去が、現在のあり方を規定していると考えます。

主体論では、確かに環境や過去は影響要因にはなりますが、決定要因とはなりません。遺伝や環境によって与えられた限界内でも、できることはたくさんあると考えます。