兄貴の罵声と母親の言葉に二重のショックを受け、もうこの家に来ることはないと深く思った。

「……どこかの施設に預けちゃいな!」

母親の言葉である。なんとむごい言葉ではないか。今までどんな苦労をしてショーを育ててきたと思っているのか、それなのに……。

私は家族の方に向くなり、「帰るよ!」と宣言するやショーを力ずくで抱え部屋から連れ出した。そして、妻、長女、ショー共々挨拶も碌にしないでこの家を飛び出し家路を急いだのだった。

この時家族全員誰も一言も口を開こうともしなかった。ただ、ただ私は悔しくて涙を滲ませていたのだ。ショーは訳が分からず私に手を引かれながら必死についてきた。

身内ですら障害を分かったふりをして良い言葉をかけてくれるが、そんな体験をすると本性が出るのかもしれない。いや、それが普通の人の感覚なのだろう。

身内だからといって分かってくれているということは大間違いということを嫌といほど気づかせてくれた。逆に障害児を抱えている私の甘えかもしれないが。

この一件から障害児童を抱えている家の感覚と健常児の家族との感覚の違いをしっかり認識できるようになった。

これ以降、二度と兄の家に行くことはなかった。

それはショー失踪事件の半年前のこと、ショーが車にぶつかったのである。例のコンビニでコーラとガムを買った帰りに信号待ちしている時のこと。このコンビニに来る時はこの交差点が鬼門である。

自分の好きなものを買ったショーは早く帰ってガムを食べたくてしょうがない。

ショーは私の手を思い切り引っ張って、早く帰るよう急がせる。信号は赤だ。

「ショーまだ、まだだよ」

私は言い聞かせる。ショーは一刻も早く家へ帰りコーラを飲み、ガムを食べたいのだ。

「ゴーッ」と音が聞こえてきたので空を見上げた。青空の中には飛行機雲が一筋。

この時である、一瞬ショーから目を逸らしてしまった。その瞬間、ショーは私の手をふりほどき車道に飛び出した。

その瞬間、「キキーッ」という急ブレーキの音。

「ドン!」という鈍い音がした。

車から女性二人が慌てて降りてくる。

ショーは道端に倒れている。「ショー、ショー!」大声で叫ぶ私。

ショーは動かない。

しばらくするとパトカー、救急車がやってきた。

救急車はショーと私を救急病院に搬送した。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ショー失踪す!』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。