2.CSRからCRMへ

企業の発展による環境汚染などの社会問題の噴出もあり、営利企業は社会貢献を果たすべきという風潮が生まれ、企業の社会的責任(corporate social responsibility:CSR)が話題になってきました。

CSRとは「企業が経済・環境・社会等の幅広い分野における責任を果たすことによって、企業自身の持続的な発展を目指す取り組み」と定義されます。従来のCSRは本業で得た利益を寄付することなどによって果たすもの(philanthropy)が主流なのですが、近年は企業の利益と社会への貢献を同時に行う、社会の大義に基づくマーケティング戦略(cause related marketing:CRM)が注目されています(図表5-6)。

 

80年代にアメリカで誕生したマーケティング手法で、具体例を挙げると、クレジットカードのアメリカン・エキスプレスがクレジットカードを利用するごとに1セントを自由の女神像修復のために寄付するシステムで、3か月で170万ドルを寄付しました(米国人は自由の女神が好きなんですね)。

王子ホールディングスがnepia 千のトイレプロジェクトとして、トイレットペーパーなどの売上の一部で東ティモールに10300を超える家庭用トイレを設置しました。

アップルは赤いiPod nano1台当たり10ドルを「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」(世界基金)に寄付しました。社会貢献とマーケティングを結びつけたこの手法は、最近は販売促進からブランド構築までその考え方を広げ、不況時にも強いアプローチとして注目されています。

一方、医療の世界では、病院が医療を行うことそのものが社会に貢献しているという自負から、逆に社会への貢献という視点が欠落していました。辛辣な意見かもしれませんが、目の前の患者の治療をしているのだから医療費を浪費し、自院の儲けを追求してもよいといったえが潜在している可能性があります。これからの病院経営でもCRMの観点を導入する必要性を感じていますが、具体的な手法は今後の課題です。
 

※本記事は、2017年12月刊行の書籍『MBA的医療経営』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。