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前編

あの彼女はほかのお客と話していたが、

「いらっしゃいませ」

そう言いながらこちらに目を向け、

「あっ!」

彼女は少し驚いた様子で歩み寄って来た。

「こんにちは」

「また来て下さったんですね、ありがとうございます」

「はい、また来ました」

私は照れくささを隠しながら笑顔で答えた。

「今日までなんですね」

「そうなんです、今日が最後なんです。ゆっくり観ていって下さいね」

そう言うと、先ほど話していたお客の方へ戻っていった。私はまた一枚一枚じっくり観て回った。

しばらくするとそのお客が帰り私一人だけになった。彼女が歩み寄って来た。

「すみませんでした」

「いえ」

私は何か話さなくてはと焦った。そこで、あの黄色い列車の写った田園風景の写真のことを訊いた。

「この写真はどこなんですか?」

「これ私の実家近くなんです」

「そうなんですか! いってみたいです」

私は思わず言ってしまった。

「是非見に来て下さい」

彼女は笑って答えた。その風景の色合いが、自分の好きな菜の花畑の色合いに似ていることを話すと、彼女は笑顔で、

「是非写真撮りにいってみたいです」

「是非!」

私は笑って答えた。

それからしばらく話し、彼女は私より二十歳も年下であること、実家暮らしで実家は山あいの田舎町であることを知った。彼女は写真を撮りに出かけたり、営業に出かけたりと、あちこち遠くまでいくことも多く、家に何日も帰らないこともあるのだと話した。あちこちに知り合いや仲間が多いことも、話のなかからわかった。

写真展が今日までだったので、片付けるのはどうするのか訊いた。すると、仲間が手伝いに来てくれるとのことだった。片付けを手伝いましょうかと言わなくてよかったと思った。

またお客が来ると邪魔になるので、そろそろ帰らなくてはと思い始めていた。

私は帰りたくない気持ちを抑えながら、

「では、そろそろ」

「あの、もし差し支えなければ、ご連絡先お伺いしてもよろしいですか?」

彼女は私を覗き込むように言った。