「でも今ではすっかり変わってしまっているのでしょうな? そこで、彼らとは久しぶりの再会だった。あのショックから立ち直ってくれることを願って訪問したが、状況はあまり変わらなかった。いや、それよりも悪化したようだった。ピエトロの酒量は更に増え、まさにアル中の一歩手前だった。一日中アンナさんに難癖をつけ、辛く当たる毎日だったらしい。

創作活動に関しても、その後全く進展なしだった。画材道具は梱包されたままで、ただ一枚の絵を描いた痕跡すらなかった。おまけにピエトロはアンナさんのようにポルトガル語は話せない。ますます孤独の罠にはまり込んで抜け出せなかったようだ」

「生活はどのようにして?」

エリザベスが尋ねた。

「それまでの絵がかなり高く売れていたし、持ち合わせは充分あったはずだ。それに物価の安い土地だ。収入がなかったとしても、堅実に暮らせば二十年や三十年は食いつなげたはずだ。私もその後、多少だが仕送りをさせてもらった。スケッチなどが何点か売れたんだ。ドル箱の画家を失って、ギャラリー・エステとしても正直痛手だった。でもロイドやその紹介による他の画商との取引がかなりあって、経営はまあ何とか順調だった」

「スケッチはたくさんあったのですか?」

「いや、彼はスケッチを表に出すのをあまり好まなくてね。それでも十数点はあったかな。年が変わって一九七二年。フェラーラとはたまに電話でやりとりするだけになってしまった。

関係がだんだん疎遠になり始めた頃、突然アンナさんの電話を受けた。受話器を通して聞こえてくる彼女の声には、格段取り乱した態度は感じられなかった。でも話は驚くべき内容だった。『十日前にピエトロが亡くなった』ということだったのだからね!」

「死んだとは? どのような最期だったのですか?」

エリザベスは身を乗り出して尋ねた。