Bたちが少年を笑顔で受け入れる。恐る恐る上を見上げ、男たちの顔を改めて見つめる少年の顔に緊張が走っている。

“What’s up, man?”

マイク・タイソン似の彼が右手を差し出す。Bたちは少年の敵ではない。男同士、また新たな仲間の証として、彼らは力強く互いの手を握り合った。

Thug 4 Life(ワル上等)

仲間や家族、また自分自身に対してBはリアルでありたいという。

だからこそ、リリックの中では綺麗事や偽善など100%抜きで、ありのままの自分を表現していく。いつでも正直でいることがBの信念だ。

但し、警察は例外らしい。端から自分たちのことを信用しようとしない警察に、あえて忠実になる必要はないとBは考えている。Bだけでない。

ストリートの人間は、瞬時に相手が敵か味方かを見分ける。本来持っている動物的な勘なのか。五感をフルに活用させながら、一瞬で相手の本心を見抜いてしまうのだ。

ストリートには私服警官の数も多いが、警官がどんなに素人を装っても、その正体は大概、見破られてしまうのだ。ストリートで語られるラップのリリックには、その人間の人生や生き様が映し出されている。

「ヒップホップは、ネガティブな部分ばかり強調しているってよく言われるでしょ? Bはそう思う?」

私は、自らの疑問をBにぶつけてみた。彼はこう答えた。

「そう思わねーな。犯罪や暴力についてたくさんラップしてたって、それはリアルだし、生き抜くためには仕方のないことだってあるんだ。メッセージを発しているというのとは違うけど、自分の日常と生きてきた人生を言葉に乗せてただラップしているだけなんだ。これって、すげぇ、ポジティブなことだぜ」。

何も言葉を発せず、犯罪に身を持ち崩して生きるより、ラップを通して、自分をありのままに表現しながら生きていく。爆発寸前のストレスを言葉に昇華していけるのであれば、それは確かに、最高にポジティブなことではないか。

自分の思いを言葉にすれば、誰かの耳にそれは届く。自分の言葉を受けて、腹を立てたり、喜んだりする人がいる。賛同する者がいれば、反対する者もいる。

声を上げることが、社会への関わりの第一歩となるのだ。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『HOOD 私たちの居場所 音と言葉の中にあるアイデンティティ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。