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第六章 踊る大紐育

天気や刻々と変わる日差しの向きに気を使い、シナトラ目当ての野次馬を避けながらロケは進められた。歌や音楽と動きにずれが生じないよう撮影する苦労もあったが、なんとか乗り越えられた。ロケを円滑に進めるためには、ジーンの考えを十分理解しながら撮影の手はずを整えていくスタンリー・ドーネンの貢献が大きかった。ジーンは次のように語っている。

「僕らはすべての撮影を隠れてやらなければならなかった。何とか通行人にカメラが見えないようにしてね。もし映画を撮ってるって気づかれたら、人だかりで撮影が遅れることになる。スタンリーはその当時でもスタジオから僕のおまけみたいに思われていたんだ。でももし彼がいなかったら、上手くやれたかわからない。“踊る大紐育”の冒頭シーンや映画全体で僕が何を考え、何を実現したいかがわかるのは彼だけだった」

五月二十三日にスタジオに戻ると、バレエ “ニューヨークの一日” の製作が始まった。当初の予定と異なり、バーンスタインがハリウッドに滞在する五日間に作曲を仕上げ、その間にジーンがバレエを作り上げることになった。曲を知ったジーンはミュージカル「オクラホマ!」でアグネス・デ・ミルが振付けたバレエに匹敵するものを作ろうと考えた。本格的に踊るため、三組のカップルの内、ジーンとヴェラ=エレンを除く四人を専門のダンサーに差し替えたが、その内の三人はジーンのアシスタントを務めたアレックス・ロメロ、キャロル・ヘイニーとジニー・コインだった。

バレエは物語をほぼなぞるように進行する。高層ビルのシルエットを背景に三人の水兵が踊り、ジーンを除く二人はそれぞれ相手の女性を見つける。ジーンはポスターで見たヴェラ=エレンと会い、二人は黒の背景を照らす赤いスポットライトの中、ロマンティックにパ・ドゥ・ドゥを踊る。集まった六人はダイナミックに踊り回るが、午後十一時三十分になるとヴェラ=エレンは消え、ジーンは一人寂しく立てかけられたポスターの脇に佇む。

バレエの撮影を終了し、「踊る大紐育」は七月二日にクランクアップとなった。