第二章 抱きしめたい

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その日の放課後二人は自転車で加藤さんの家に向かった。北風が吹く少し寒い日だった。彼女を家の前まで呼び出した。

「早苗、お友達が来て家の前で待ってくださっているよ」

お母さんが呼んでくれた。

「今日はすごく寒いですね、二人でなんの用ですか?」

彼女は、ベージュの暖かそうなコートを肩に羽織って家から出てきた。

小学校が同じだったが久しぶりに会うと印象が大きく変わっていた。北川が惚れたのも理解できた。

鉄平達二人は、自転車にまたがった状態で加藤を挟むようにして話し始めた。鉄平は、自分の事でないので気楽だった。

「加藤さん話はね、北川君がず~と前から貴方に好意を持っていたので、これから真剣に交際をしたいと言っています、今日はそのお願いに来ました」

何だか、何時もより饒舌に話せた。自分でも感情をこめて、うまく出来たと思った。横で聞いていた北川も満足そうだった。

北川は、出番だと思い決意したように彼女の顔を見て。

「早苗さん最初は、お友達からお付き合いをしてください」

何か、どこかで聞いた事があるような台詞を言った。北川は自信が有るようだった。

加藤さんは、北川の自転車のハンドルのベルを指で無邪気に鳴らしていた。しばらく考えて返事をした。

「私は、まだ異性とお付き合いは早いと思っています」

その時だった。母親が何かを察したように玄関から彼女を呼んだ。暫くして母親が一人で出て来た。

「北川君達も早苗も、まだ交際は早過ぎます。今は勉強をしっかりする時です。早苗にも話しておきました」

この話には、鉄平も北川も何も言えず下を向いて聞いていた。

「分かりました。お母さん」

そして帰り際、加藤さんは玄関まで出てきて右手を胸の前で小さく振った。

「有難う北川君、気を付けて帰ってね」

「滝沢君も有難う」

加藤さんの家からカレーの香りがした。その生活感にさらに挫折を味わった。鉄平は中学三年生の恋は、何を基準に心が熱くなり悩むのか考えていた。

鉄平は、小学校の友達に女の子を好きになる方法をつくってもらっていたのだ。それから数日たった日の放課後、教室を出て家に帰ろうとしていた鉄平を森山が呼び止めた。

「鉄平。ちょっと付き合え」

「何を付き合うの?」

「一緒にそこまで行ってほしい」

「そこまでとはどこだ」

森山の入っている軽音楽部の部屋に取りに行く物があるので、ついて来てくれと頼んだのだ。二人で新校舎の二階の部室へ向かった。