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適度な刺激のある環境について

『強い刺激は、認知症を持つお年寄りにとってストレスになることがあります。逆に、知覚的、社会的刺激が極端に少ない環境では、認知症の症状や身体状況が悪化してしまいます。』(1)

認知症を患っていなくとも、このような環境の刺激調整は必要です。ましてご高齢者は年齢を重ねるほどに認知症を併発しやすくなりますから、高齢者住宅を作るに当たってはそこまで見越した環境作りが重要だと思っていました。

また、自分の感覚的に考えても、老後の住み替えで、ひと所に長く住む、一生住む時にどのような環境がいいのか? それを考えた時、環境の刺激コントロールを考えていたのだと気づきました。

もし自分の体が動かなくなったとしても、思考はできる。逆に認知症になっても思考はできるし、体もそこそこ動く。その思考を妨げない、あるいは思考が深まる環境。体を動かすことで思考を刺激できる環境。人から完全に孤立するのも寂しく、適度な社交のある環境。加えて、いよいよ最期になってもサポートしてくれる体制、そこで看取ってくれる仲間が欲しいものです。私が欲するのはそのような環境ではないか? 私の作りたかったサ高住「美しが丘」はそんな家です。

それらの環境を具体的に構築するには『「空間の規模」「人間関係の調整」「外部環境」「その人らしい居室作り」「役割、仕事、趣味の創出」』(1)を意識しました。

空間の規模

『広すぎる空間はどことなく落ち着きませんよね。大きな空間では、落ち着いて滞在しにくく、他者との関係も生まれにくいものです。雑然とした情報に周囲を囲まれ、寄る辺のない状況です』(1)

健常者でも大きな体育館あるいは大部屋にぽつんと居るのは居心地が悪いですよね。ましてや、目も耳も効かなくなった高齢者、さらには空間認知機能の落ちた認知症の方々にとっては深い霧の中に一人たたずむような辛さを生むかもしれません。

「美しが丘」では食堂兼リビングの一角にソファで区切った小空間を置きました。食後や昼下がりにここでテレビを見たり、入居者さんのくつろぐ姿が見られます。座って庭を見たり、本を読んだり、おしゃべりをされたりしています。小さな空間は親密さを感じる空間です。入居者さんどうし、入居者さんと介護者の自然なかかわりが生まれています。

リビング脇の小空間でくつろぐご婦人達。(巻頭P.iv)

そのような空間を施設の両翼に配置しました。西南端には図書空間として持ち寄った書籍をおいています。この空間では囲碁や将棋をする姿が見られるようになりました。反対側の東南端は北側のお部屋のかたが気晴らしできるように作った南向きの談話スペースで、くつろげるようにソファとテーブルを置いています。ここは奥様方のお喋りの場になったようです。日課の施設内散歩をされた方々が一息つく場所にもなっています。