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ガチャガチャ

その七〇七号室は大滝ナースの言った通り一番奥の部屋で個室である。今までの大部屋とは違う匂いがした。消毒液の香水でもあるのかと錯覚を起こしそうになりながらドアを開けた。

あらっ、なんだ、もう一枚ドアがあるではないか、さっきは大滝ナースがドアを開けてくれたのでわからなかったが、今度のもう一枚のドアはやたら重たくて力を入れなければ開かなかった。疲れているアッキーママであったが気合いを入れて、もう一度、えいっと押して、そして、ようやくドアを開ける事が出来たのだった。

さっき、大滝ナースと初めて入った七〇七号室の部屋と同じ空間が広がっていた。わあ~と感動している瞬間と同時にドアは鈍いが、ガチャリと音がした。

確かに『ガチャリ』と音がしたのだ。

後ろを振り返ったアッキーママはドアを見つめた。何か頭から足の指先まで、ピリピリッと電気が走り抜けたような気がした。恐る恐るドアノブに手をかけた。ガチャガチャ、開かない。

あれっ、もう一度、ドアノブに手をかけた。今度はドアノブに指を強く握りしめてから回してみた。ガチャガチャ。やっぱり開かない。

これがアッキーママの精神科閉鎖病棟、双極性障害、急速交代型(ラピッドサイクラー)1型の七〇七号室の物語の始まりだった。

ドアを叩いてみた。誰か通るかも知れない。ドンドン、また、ドンドン。

「誰か~開けて~、助けてください」

ドンドン、アッキーママは何度もドアを叩いていた。

「大滝ナース、来て~、来て~」

ドンドン、次第に手が熱く痛くなってきた。今度は、手のひらでバンバンと、ドアを叩いてみた。ここから一生、出られないのだろうか? 心臓の鼓動がドクン、ドクンと次第に大きくなり鳥肌が立ってきた。それに、アッキーママは極度の閉所恐怖症でもあった。