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Ⅲ 改善に向けての模索

台風15号は強い勢力を維持しながら北上を続け、その日の夕方には駿河湾に上陸し、その後東よりの進路をとって日付が変わる頃関東地方に最接近する予報が出ている。

社員は皆帰りの交通機関を心配し、早めの退社にならないかとささやき合っていた。

ミーティングが終わり部屋に戻った長田は、どこから手を付けたらよいのか、その糸口はどこか、営業利益を3年後に5倍にするという目標が現実的であるのか……。頭の中が混乱している状態で、まさに外の嵐が自分の頭の中でも渦巻いていた。

ただ一つ頭の片隅に残っているのは、総務部長清田の言葉であった。

営業利益5倍だから売上高も5倍の100億円にすることはできないだろうが売上高を今期予算の2倍の40億円が可能かどうかの長田の問に、一同がその可能性は可能というよりもやらなければならないという答えであった。しかし、売上高40億円で営業利益が5倍の10億円については大いに疑問という見方が大勢であった。このとき清田が示した一つの考え方はこうだった。

今期の予算の売上2倍をベースに考えれば、【変動費+固定費】の合計は36億円となる。36億円を30億円にコストダウンすることができれば、営業利益10億円は達成できる。

長田の上司の木島経営企画室長は清田の話にはうなずくとも、中田営業部長と同じく単なる数字合わせの結果であって、その実現性には否定的な見方をしている。

小松電子工業は今まで薄利多売で成長してきた会社であって、あまり組織だったコストダウンを行ってきたことはなかった。そのため各部長もコスト意識に対する関心が薄く、赤字にならなければ〝ヨシ〟という感覚であった。

製造部長の山田は、基盤製造部門が赤字であることは承知していたが、製造部門全体で黒字であることから、今まで大きな危機意識を持っていなかった。