第二章 抱きしめたい

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「滝沢君、僕は君みたいに女の子とデートをした事もないのです」

「デートなんかしてないよ、君がそこまで言うならこれからどちらが彼女と付き合うか決闘で決めよう」

「決闘ですか……滝沢君、僕には無理です」

「それじゃお前は、山岸の事は諦めろ」

鉄平は、柴田が腕力では鉄平には勝てないことを見抜いていた。

「どうする、はっきりしろ」

鉄平は俄かに腹が立ってきた。

「それでもお前は男か、それで女の子を好きになれるのか」

彼は黙ってうつむいていた。

「結論が出た様だし。もう帰るよ」

「待って。僕はやっぱり山岸さんの事が大好きです。滝沢君、お願いです、決闘は出来ません。うまく話もできません。でも彼女の事は諦められません」

鉄平は彼の山岸に対する気持ちには正直、勝てないと思った。

彼の真剣な言葉を聞いた瞬間に、山岸が僕の世界から少し離れた。

わかったと言うのも少し癪だし。

暫く考えてそして。

「よし、それじゃ、じゃんけんで決めよう、君が勝ったら僕は、山岸の事は忘れよう」

「え! じゃんけんで」

「そうだ、決闘はしない、あきらめもしないなら何かでケリを付けなければ」

「でもこんな、大事な事をじゃんけんで決めるのは不謹慎だと思います」

「君と、もうこれ以上話をしても時間の無駄だ、帰る」

鉄平は、その場から帰ろうとした。

彼は本当に泣きそうな顔になった。

だが、鉄平の提案もこれが最後だと気が付いたみたいで、やっと少し震えた声で、

「滝沢君、待って。わかった。じゃんけんをします」彼は渋々その気になった。

「勝負は一回だぞ」

彼の顔色を見ながら向きあった。

鉄平は「じゃんけん、ほい」と言って少し早めにチョキを出した。その前にあえて空を見上げて後ろに構えたチョキを彼に自然に見えるようにした。彼はそれを見て、当然グーを出した。

「柴田君の勝ちだよ」

鉄平は本気で残念そうな顔をした。

「滝沢君、わざと僕に勝たせてくれたね」

「いや勝負は真剣だよ。後出しじゃんけんは知っているが先出しは聞いたことがないだろう。僕にそんな器用な真似は出来ないよ」

「滝沢君、今日は有難う。君と話してこれで勇気が持てた様な気がする」

彼は何か強い決意を持ったようだ。

「そうだ、それから柴田君、大事な事だ。今日のことは、何があっても山岸には絶対に言っては駄目だよ。男の約束だよ。もしこの話を山岸が知ったら二人とも終わりだよ」

「うん、ぜったいに言わない、約束する」

鉄平は、彼がやっと男らしく言ってくれたと思った。

それから、数日たった学校の帰り道。校門に続く花壇に薄紫のたぶんコスモスだと思う。花には興味が無いが、なぜか心が休まると思いながら歩いていた。

校門の辺りに何人かの女子が輪になって立ち話をしていた。鉄平は、出来るだけ、女子の輪から離れ急ぎ足で横を通り過ぎようとしたが、数人の女子に囲まれる形になった。その中の一人が鉄平の前に立ちふさがり声を掛けた。

「五組の滝沢君ですね」

「滝沢です。何か」

「はい、これ」とだけ言って折りたたんだメモを手渡した。

僕は何かと思いながら、無意識に手を出して受け取っていた。その横を女生徒が自転車で通過した。

「コスモスが綺麗ね」

「そうね、私の一番好きな花。少し離れて見るのが好き」

二人の会話が聞こえた。僕達の事は、全く気にしていないようだ。メモを急いでポケットにしまって家に帰って読んだ。

メモは華岡朋子からだ。

『噂を聞きました、私は貴方を信じています。でも少し悲しい気持ちになりました。 華岡朋子』

綺麗な字で書いてあった。

その字に何か強い意思を感じた。あの女子の輪の中には彼女はいなかった。そんなこともあり鉄平は、逆に山岸明日香を意識するようになった。

青春の矛盾する心の固まらない弱さだ。お互いの気持ちが絡み合い解けない。無理やりほどこうとすると余計に絡む。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『爽快隔世遺伝』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。