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第二章 手錠、運送屋、そしてアメリカの漫画 一九〇九年/一九一九年 ベオグラード

時々、そして最近になると頻繁に、ディミトリイェヴィチ大佐は奇妙な二重感覚に襲われることがあった。

それはまるで、世界の強度が失われ、自分のまわりの現実世界の構造が穴だらけで実体のない、煙のようなものになったかのようであった。そして彼は、この薄もや、揺さぶられているベールの背後に、何かもうひとつの現実世界を見ていた。

魂の棲み家となっている世界、また、かつて存在したことがなく、しかしまた、どこかに、またある時間に存在する事象、その事象に登場する者たちの棲み家となっている世界である。

ベオグラードの天空に瞬く星々を眺めながら、陰鬱な気分で物思いにふけってタバコをふかしていた時に、大佐は自分の人生の旅路が間違った方向に行ってしまったのではないか、ある存在可能な宇宙の全体を倒したのではないか、自問しないではいられなかった。

そして今存在しているのは、うーむ、単なるビジョンあるいは幻影ではないのか?たぶん、それは彼がカレニチの裏道に住んでいた女占い師のところに行って、運命を占ってもらった日のことであった。

その時、軍学校を卒業して少尉になったばかりのころ。理想に燃え、軍務で祖国に奉仕したいと考えていた。他勢力との均衡をやり遂げ、自分がその息子であるところの民族を統一する。

国家の領域を画定する。もし必要ならば、炎や武器や血でもって。彼は、その目的のために、自分自身の生物学的存在を犠牲にし、体の命令を退け、女性に背を向ける覚悟ができていた。

ただし、彼が理想とする女性に会った時は別だった。たとえば、自分の母ヨヴァンカ、あるいは並外れた美人で洗練されたゲンチチ夫人、セルビアのとても裕福で著名な一族の夫人のような女性の場合。セルビアが彼にとっての花嫁、かつて現実の女性がそうであったためしのないような純粋で高貴な花嫁となるべきであった。

でも、今は全てが変わっている──彼も、婚約者になるはずだったセルビアも。白人のジプシーだった女占い師は、その薄暗いあばら家のソファーで、恥じらいもせずに足を広げて自分の小汚い秘所を見せた。

その時、ディミトリイェヴィチは、動悸と熱の中にいるように感じ、頬と耳が赤らんだ。自分の道は、まっすぐではっきりとしたものだ、とこの瞬間まで考えていたのだが、まるで道の分岐点に来てしまったような気持ちだった。

一方の側は理想の道。いつも手が届かない。もう一方の側は、動物的存在の脈拍。彼の眼と手の前ではしなやかで従順である。誘惑。彼が誘惑に抵抗しなかったこの日から、熱と湿りと発汗を伴う、感覚世界へのイニシエーションの後に、彼はもう以前と同じ人間ではなかった。

自分の大切な一部が、タバコの煙のように、空気中に立ち昇り、ベオグラードのそよ風に吹かれて消えていったような気がした。

セルビアも、もう以前と同じではなかった。