この主婦A子はどうやらノイローゼに陥っていたようであった。私はこの主婦A子と話し合うことはできないと思い、主人に電話をして二人だけで話すことにした。

近くの喫茶店かファミレスで話し合おうと思ったがどこで誰が聴いているか分からないのでちょっと離れた公園のベンチで話し合うことにした。

話し合う前に私は周到の準備をしていた。それは裁判沙汰にすると覚悟したからである。

まず、この騒音問題に関して弁護士に相談した。弁護士が言うことには裁判するためには客観的な事実の積み重なりとその履歴が大切であるとのこと。

息子のバスケットボールペタペタがどの程度の騒音になるか騒音を図る計器でデータをとる。そして、これからの重要なことである。要するに一日に電話が何回かかってきたかということを克明にメモで良いので履歴をとることである。そして、電話の内容を録音すること。弁護士の言うことによれば内容によりそれ相応の慰謝料を請求できるということである。私はこの情報を持って隣人の主人と話し合った。話し合うというより一方的に通告したのだ。私が通告した内容は以下のことである。

まず、これ以上電話をしてくるようであれば裁判所に訴えると、ハッキリと強い語調で言った。このご主人は真面目そうな方なのでそれだけでビックリしたようであった。

それ以上に慰謝料の話を持ち出した瞬間、主人は顔面蒼白になり震えだした。裁判、慰謝料という言葉だけでビックリするような真面目を絵にかいたような主人である。

私は言った。

「本当に騒音であなた方家族に迷惑をかけているのであれば申し訳ないのでどの程度の騒音なのか、計器をおいて客観的なデータを取らせて貰いたい。それを元に裁判所に判断を仰ぎたい」

主人は黙ったまま一言も発しなかった。動揺して何も言えなかったようである。

そのことがあってから隣人からの電話は一切かかってこなくなった。それはそれでめでたいことであったが、私達夫婦にはなんともやりきれない気分だけが残ってこの問題の決着がついた。

それからショーはというと、相変わらずこのバスケットボールは気に入っているようであり毎日ペタペタしていた。しかし、何を思ったのか分からないがこのバスケットボールを歯で噛んで穴を開けてしまった。それからペタペタしてもボールは空気が抜けて音もすることも弾むこともなくなり、このボールから気持ちが離れていってしまったのであろうか、二度とこのボールに触らなくなった。

このボールはというと寂しそうに部屋の片隅にペチャンコになったまま転がっているのであった。
 

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ショー失踪す!』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。