第二章 抱きしめたい

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放課後その場所に行くと柴田は一人で待って居た。彼は想像していたイメージと随分違った。不良グループの兄貴分だと思っていたので、場合によっては喧嘩になる覚悟もしていた。ところが服装もキチンとして髪も七三に綺麗に分けて顔色も白く典型的な優等生に見えた。

「柴田君、連絡に来たのは君の友達?」

「友達ではないけどクラスの人気者だよ」と言った。そうかこの年代はお互いに持ってないものに憧れるのだ。彼が相談したら、よし俺達に任しておけと言って鉄平に連絡をしたようだ。

「滝沢君ですね。君は僕の事は知らないと思うけど、僕は君の事は知っているよ」

「なんで僕の事を知っているの?」

「君は同じクラスの山岸明日香さんと夏休みに神社でデートをしたよね」

「二人で過ごしたのは、事実だがデートでは無い」

「ほんとに。そうなの?」

「誰がそんなことを言っているの?」

「みんなが噂をしているよ」

「どんな噂?」

「僕が聞いた話では、二人は仲良く手を繋いで歩いていた。そして神社の奥の大きな木の後ろで、しばらく抱擁をしていた」

「え、嘘だろう!」

鉄平は本当に驚いた。

「それだけではないです、女子の一部では二人はそのあと……」そこまで言ってやめた。

「ほんとにいい加減にしてくれ、そんなことが僕に出来るはずがない」

鉄平は本気で腹が立ってきた。

でも皆が異性に特別な興味がある年頃だと自分に言いきかせて気持ちを落ち着かせた。

「滝沢君、本当のことを教えてほしい」

「本当も何も全部でたらめな話だ」

鉄平は怒った顔で答えた。

「嘘だと思うなら山岸さんに直接聞いてみたら」

彼は僕の目をじっと見ていた。疑っているのは明白だ。

「でも、みんながそう言っているよ」

「柴田君、僕達は手も繋いでないし抱擁もしていない。ましてそれ以上の事なんて絶対にする訳がない。出来る訳がない。二人でベンチに座って学校の話をしただけだよ」

「君は山岸さんを、どこで知ったの?」と聞いた。小学校の時同じクラスだった。

噂はどんどん大きく膨れていくだけではなく特別過激な装飾がされていくのには驚いた。

「滝沢君、僕は山岸さんの事が真剣に好きです。だから君の本当の気持ちを教えてほしい」

鉄平は予想外の質問にとまどった。

「うん、彼女に恋をしたかも、好きだよ。だから君こそ山岸さんの事はあきらめろ」

鉄平は何か意地悪な気持ちになった。きっと真面目で純粋な柴田に嫉妬をした。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『爽快隔世遺伝』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。