第二章 秘密

私たちはそれからの時間を、許す限り一緒に過ごすようになった。

私は仕事が不規則で、大抵夜遅くなったので、終わったらすぐに彼に連絡をした。彼は外で飲んでいることも多かったけれど、私が連絡をすると、きっと今までより早く切り上げて私の家に来てくれたし、彼が家にいるときには私が彼の家に向かった。

彼が「今日は遅くなるよ」と言う日でも、私は起きて待っているからと伝えた。彼が外で飲んでいるときには、電話から漏れ聞こえてくる声からも、女性と一緒だとわかるときもあった。私は途端に不安になったけれど、最初のうち私は誰と飲んでいるかを聞きたい気持ちをぐっと堪えた。彼といると、本当に日々が女学生みたいになっている自分がおかしかった。

私に彼から連絡が来ることは、ほとんどない。

「君がそのときに、何をしているかわからないから、電話をかけるのは苦手なんだ。仕事中かもしれないし、大切な時間かもしれない」

私が何故連絡をしないのかと聞いたとき、彼はこう答えた。

多分、彼は誰に対してもそうで、自分から飲みに行こうと連絡をすることは、ほとんどないように思えた。それでもいつも、彼の携帯は頻繁に彼を呼び出したし、メールを知らせる音は二人でいる静かな部屋に大きく響いた。彼は、誰からかを確認して、静かにまた、携帯を置く。

出ることもあれば、出ないこともあった。

返信したり、しなかったりした。

「ねえ。大丈夫? 行かなくて平気ですか?」

私はやがて、何度かに一度は、不安になってつい、その電話やメールを受け流せないよ
うになった。

「大丈夫。行かなくちゃならないときには行くから」

彼は無表情に答えた後に、決まって優しく私の頬を撫でたり、髪を触ったりした。

そうすると、私はそれ以上を聞けずに、彼の肩に、頭をそっと寄せる。

私と出会う前の彼の生活を、私は知らない。

それを聞いてしまうことは、私には到底プラスだとは思えなかったし、くだらないことだとわかっていた。

欲は、どこまでも深くなる。

一度タガが外れると、なかなか元には戻らない。

彼が私に、私にかかる電話やメールについて一切を聞くことはない。

そして彼は、できるときには誰かの誘いに応えている。ただそれだけの話だった。私と過ごしていない時間の彼はもちろん、私のものではない。それは驚くほど当たり前のことだったし、驚くほど明確にわかっていることだった。世の中に私と彼の二人きりならまだしも。そしてこんなことに悩んでいる自分がやっぱり女子高生みたいだった。

でも私は彼といると、そんな風に、ほとんどの時間が彼でいっぱいになりすぎた。
 

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『触角』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。