第二章 抱きしめたい

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夏休みも終わり新学期が始まった。何か、周りを変に意識して教室でも山岸とあまり話をしなくなった。これが、きっと青春なのだ。お互い、何か世界が違うと感じて距離を置く様になった。

なぜだか二人で会うことは、これからも無い様な気がした。でも、あの木陰で二人が過ごした時間は、何時までも青春の一ページとして忘れる事はない。

新学期の平穏な学校生活が流れた。ある日の、昼休みが終わる五分ほど前に教室に戻った。体育館で友人達とバスケットボールをして遊んでいた。急いで教室に戻ったので息が切れた。

何か、皆がざわついていた。隣の席の山岸が机に座って、うつむいているのに気が付いた。

「山岸さん、どうかしたの?」

山岸は、鉄平の顔を見て、そしてゆっくりと前の黒板に目を向けた。

黒板には、黄色いチョークで大きく、『ビッグニュース』。その下に二人の名前と夏休みの八月某日二人は神社でデートをしていたのを目撃した者がいる。その横に、二人が手を繋いで歩いているイラストも書いてあった。

男子生徒の拍手を背に受けながら、鉄平はゆっくりと黒板の前に立ち、わざと少しずつ内容を確かめる様に消していった。授業が始まるチャイムが鳴った。鉄平は皆の方を見て頭を下げて礼をした。教室に大きな笑いが起こった。

席に戻ると彼女が、鉄平の顔を見て笑いながら泣きそうな顔で言った。

「有難う、ごめんね」

鉄平は、笑いながら。

「本当の事だから……僕は」と次の言葉を言いかけた時、教室のドアが、ガラガラと開き先生が来られ、何事も無かった様に授業が始まった。もう少し先生が来るのが遅ければ鉄平は、きっと、僕は後悔していないよと言っていたと思う。

山岸も先ほどは、少し涙ぐんでいたが、もう落ち着いていた。こんな子供じみた悪戯は、中学生ではよくある事なのだ。

山岸に周りにわからないように、ノートの隅に「大丈夫」と書いて見える様に横にずらした。それを見て「心配しないでね」返事を書いて僕を見ないで少し微笑んだ。

二人の関係は、きっと情熱の夏だから、中学生だから、朝顔の様に爽やかに花開く。そして自然にしぼんでいく。

ところが、この話はこれで終わらなかった。小川に流した笹船の様に、ゆらゆらとあちらこちらに寄り道をしながら、噂の荷物を各教室に順番に配達していった。当然、華岡朋子の教室にも流れついた。

ところがそれは、思わぬ教室で受け取った生徒がいたのだ。二組の、今まで一度も話をした事も無い男子生徒が教室に来たのだ。確か学校では有名な不良グループの二人だった。

「お前が滝沢か、二組の柴田が山岸の事で話がしたいと言っている。放課後B校舎の裏で待っている」

柴田とはきっとグループの兄貴分だろう。なぜならこの二人を使いに来させるのだから。鉄平は断ることはできないと思った。

「確かに伝えたぞ」

「分かった、必ず行くよ」

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『爽快隔世遺伝』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。