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ホースディアーだけのチケット

「中西さん!」

青いジャンパーの男性にホームレスの一人が声をかけていた。

――あの人は中西さんて言うんだ。里奈はどうしていいかわからず、そのまま車に乗っていると、佑が車から降りてホームレスたちに話しかけた。

「あの~、初めまして。根本といいます」

「何かご用ですか?」

ホームレスの中でリーダー格の男性が聞いた。

「あの、ここで何をしていらっしゃるんですか?」

「住むところがないんです。仕事もないので仕方なしにここで過ごしているんです」

「そうだったんですか」

「それで、何しにここへ来たんですか?」

「僕は今無職です。みんなで仕事をどうするか考えませんか?」

「あなたは住むところがあるからどうにかなるでしょう。でも、僕たちは住むところすらないんです」

「住む所? お金を払えばアパートとか、貸してもらえないですかね」

「そのお金がないから困っているんです」

「いくらくらいならいいんですか?」

「六人もいるから、一人三十万、他もかかりそうだから、最低二百万てとこですかね」

「それは大金ですね」

里奈はドキッとした。タンスの間にあった百九十万円。二万円は渡したから百八十八万円。あと十二万円足せば二百万円になる。

「まあ、冷やかしに来たあんたにはあってもだせないだろうがな」

「そうですね。僕たちには生活がありますから」

そこへ、里奈が車から降りてきて男性たちに話しかけた。

「お金はともかく住むところはありますよ。オンボロですが」

「家賃は?」

「タダです。ガスはすぐにはでませんが、水道と電気は使えます」

「僕たちに親切にしてもなんのメリットもありませんよ」

「住むところと仕事が見つかるまでそこで待機したらどうでしょう?」

里奈は自分の名前も言わずに会話に入ってしまった。