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バッジテストと初めて見る全日本フィギュアノービス選手権

連盟の会議室に小笠原と五十嵐がいる。

「四ノ宮が本格的にコーチを始めたそうだな」

「はい、才能がある子を見つけたようです」

「そうか、それは良かった」

小笠原は、剛がオリンピックで金メダルを取った時のことを思い出している。

オリンピックでの表彰台から記者会見、優勝パレードなど日本中はフィーバー状態。そして世界的なプリマドンナとの結婚と続く。その次のオリンピックを目指して臨んだ全日本では10位と惨敗。酒に溺れ出し、離婚、自宅も豪邸から安アパートへ引越し、それまでの蓄えを使いながら定職にもつかず、たまにあるアルバイト的な仕事だけで過ごしている。

自宅の扉をたたく音が聞こえ扉を開ける剛。そこには小笠原がいた。

「剛、なんて風貌だ。鏡見てないだろう」

「先輩、情けなくなるので帰ってください」

「このまま何もしないつもりなのか?」

「何をしたらいいのか、何がしたいのかわからないのです」

「俺に一度体を預けろ」と強い口調で言う小笠原。

「……」

「若手育成の責任者になった。お前をコーチとして呼びたい」

「コーチなんてやったことないですよ」

「お前は天国も地獄も知っている。だからいいんだよ」

「先輩……ありがとうございます。でもスケートからしばらく離れたいのです」

連盟の会議室に戻る。

「小笠原さんには感謝してます」と五十嵐。

「自信に満ちた剛に戻ってきてほしいだけだ」