この時に使用されたけん銃は、三八口径の米国製スミス&ウェッソン、回転式けん銃だった。当時、鹿島銀行はいわゆる貸し剥がしと称する不良債権の強引な取り立てでトラブルが目立っていた。

その逆恨みの犯行ではないかということで、その方面から重点的に捜査がされた。しかし、事件解明の手がかりも得られないまま、事件発生から数か月が経過した。そのような中で、事件が急展開した。

一人の老齢の男がその犯行に使われたけん銃を持って、大阪市中央区の鹿島銀行本店に押しかけ、行員から現金を脅し取ろうとして恐喝未遂で逮捕されたのだ。

この男は、所持していたけん銃について、「これが名古屋の事件で使われたけん銃だ。俺が小俣支店長を射殺した」と自供した。

名古屋支店長殺しに使用されたけん銃かどうかは、現場から発見された弾丸と、このけん銃を試し打ちした弾丸を、それぞれの線状痕で照合する鑑定結果で分かる。

これでこの事件も一挙に解決かと思われた。しかし、この男が供述した犯行の状況は明らかに現場の状況とは違っていた。その生活ぶりも調べると、多額の借金をかかえて借金取りに追われる生活をしていたのに、殺害事件後、しばらく滞納していた何か月分かの家賃をまとめて払っていた。

しかも事件当夜、男が名古屋市内の知人宅を訪ねた際、ちょうどテレビで射殺事件のニュースを見ながら「あの連中ら、そこまでやるとは」とこぼすのを知人が聞いていた。

この男は、何者かに報酬をもらって出頭役を引き受けた、いわゆる替え玉と思わざるを得なかった。捜査は、この犯行に使われたことが間違いないけん銃を、この男がどういうルートで手に入れたのかに向けざるを得なくなった。

しかし、男は、最後までこのけん銃の入手経路を明らかにしなかった。

この殺人事件の犯人は結局、捕まらず時効となり、迷宮入りとなった。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『ヤメ検・丹前健の事件録 ―語られなかった「真相」の行方―』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。