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山岳捜索隊 溝原朗子みぞはらりょうこ

六月三十日(土)家族の要請による捜索一日目(最初の捜索から四日目)。

時間通りレストハウス前に集まった。山岳隊の結城隊長も朝だけ顔を出す、と言って来ている。今日は平日仕事で出られなかった若手、それでも四十代・五十代のベテラン登山家。沢も雪渓も、同じ山岳隊でも誰もが行けるところではない、難しい場所に行ける者が揃っている。

二人はあまり似てないが、昨日から配られた遭難者のビラの写真は、長男の方、遭難者の服を着てきた方に似ているようだ。次男さんは、よく写真を撮り、母親に送っているようだった。息が上がっているのは長男さん。兄弟でも得意分野は違う。

このお兄さんは、あまり運動は得意ではないようだ。がっしり型の次男さんは、かつて何かスポーツをしていたのかもしれない。動きが違う。遭難者の最後の情報、追分まで来た。

立ち入り禁止の看板。遭難者が残した登山計画のコースの行先。

「行ってみる?」

私なら、草が生えていようが前が見えなかろうが、道はわかる。

「入ってみてもいいですか?」

よし、決まりだね。この道は途中まで遭難者の足跡が見つかっている。そこまでなら素人でも行けるだろう。十三時半、遭難者が竹谷温泉コースを帰ったなら、本来そこから鬼塚まで歩いただろう。

しかし、もう完全にバテている。警察の坂崎と、トランシーバーで連絡を取る。携帯が通じないところでも使える優れものだ。坂崎とご両親は竹谷温泉の登山道入り口で待ってもらうことにした。

すでに車が竹谷温泉登山コースに来ていて、あとの二隊との連絡で、いったん鬼塚まで戻り、二隊を待つことになった。途中、拾ったタオルのハンカチ、女性用だとは思ったが、次男さんが持ち帰るというので渡した。鬼塚で、二隊を待つ。

「一応、息子さんの足跡が途中まであった、立ち入り禁止区域にも入ってみました。足跡が途切れたところから戻ってきました。ちょっと草木が高すぎて立って歩けないので、腰を落として歩いたから、かなり疲れたと思います」

ご両親に報告すると、二人は深々と頭を下げた。そして母親の方が口を開いた。

「お名前、聞いてもいいですか?」

「え? 私ですか……。溝原です」

「溝原さん、ほんとうにありがとうございます」

何も収穫の無いことが申し訳なかった。やがて雪渓と滑落しそうな箇所を回った二隊が戻ってきた。また、何の手がかりもなかった。

「あの……」