【関連記事】「出て行け=行かないで」では、数式が成立しない。

ユタの肖像

武装した学生のグループが日航機を乗っ取り、理想の国家形態と信奉する隣国へ脱出。ビートルズの分裂。ウーマンリブの大行進。そしてあなたの敬愛する作家が自衛隊の本部駐屯地で蜂起を促す演説をし割腹自殺を遂げた。

同志の美青年が介錯して首を刎ねたという光景に、丼も鍋も要らないというカップヌードルの登場が重なり、グアム島のジャングルから一人の日本兵が発見された。

ジャンプ陣の目覚ましい勝利のつづく冬季オリンピックの興奮と、浅間山荘に立てこもった連合赤軍と機動隊の銃撃戦をテレビ観戦する興奮。田島の言う昆虫恐怖の幻覚はあなたのものでもあった。

世界は、時代の証たちは、田島たちの描き出そうとする超現実の作品を超えて、なお超現実に思える。

するとあなたは突然、田島に、あなたのあきれるばかりに超現実的な夢を賭けてみたくなったのだ。彼ならその夢に、笑い飛ばすどころか面白がって一緒に手を取って乗ってくれそうな気がした。

田島孝介様。あなたは便箋を取り出しペンを持つと田島に呼びかけた。

――私は、その日、「ユダ」になることを恐れません。むしろ貴方と一緒にユダになりたいとさえ、今は思っているような気がします。

でも、裏切りというのは信じていてこそのことでしょう。まったく何も信じることが出来ない者に、裏切りなんて存在するのでしょうか。私をユダにしたいとお望みなら、どうかまず私を信じさせてください。

そこで、私がいつも夢に描いている「約束」をしてくださいませんか。

その誰にも何の得にもならない馬鹿げた約束を本当に実行する人間がこの世にいるのかどうか、つまり約束を本当に信じることが出来るかどうか、私は貴方と私自身に賭けてみたいのです。

貴方ばかりでなく私自身をも試してみたいのです。だって自分自身が最も確かな証なのですから。約束とはこうです。十年後の、九月四日、午後九時四分、高田馬場駅で待ち合わせましょう。

一時間を過ぎたらユタが在るかぎりはユタにて終電までは待つ、というものです。

貴方らしく、いいえ私たちらしく、人の嫌う禍々しい数字ばかりにしました。約束を果たせなくて赦せるのは、それぞれお互いに死亡しているか病気か怪我で動けないかの、いずれかの事情の時だけです。