その一方で、ニッポン放送のCMを制作販売する代理店の権利を得て、各クライアントから一日数本のコマーシャルを獲得することができた。

実績を挙げたため、ニッポン放送から東京地区の各広告代理店が一堂に集まる旅行セミナーに招かれたうえ、四十三歳でその団長に推薦され、同局では顔を知られることになった。

当時、親しくしていた営業担当課長が後にニッポン放送の社長になったのには驚いたが……。英会話事業は、私がオーストラリアにホームステイした後、赤坂にある英会話会社の社長と親しくなり、フランチャイズ契約で始めたものである。

後に判明したのだが、赤字の不良会社と契約したためか千八百万円もする高いコンピューターをリースで導入させられ、しかもソフトがお粗末で使い物にならなかった。

騙されたと気づいた時には遅かりし。リース契約はレンタルと違い、契約違反が明らかにならない限り解除しても残金は払わなくてはならない制度であるため、完済するまで毎月、自動振替せざるを得なかった。

この不条理な契約には腹が立ち、契約した社長に何度もリース料の返還を求めたものの埒が明かなかった。リース会社の担当者も正当な契約を盾に譲らなかった。

私は思案の挙句、毎月支払うリース料をストップさせた。早速、弁護士事務所から書留で督促状が届いた。予想通りであった。しかし怯むことはなかった。

何回催促してもエンジニアは来ないし、契約書の通りのソフトがなく動かないので、契約違反は明白であった。しかしリース会社は「契約書に押印したので支払いは当然」と主張し、簡易裁判所に訴えてきたのである。

ここで、また予期せぬ幸運に出会った。何と人材募集で取引のあるR社から「コンピューターを貴社に販売した英会話会社は、リース会社と以前から不良債権のトラブルを起こしている」との情報が入ったのである。

つまりこのリース会社は、英会話会社が不良会社と知りながら使い物にならないコンピューターのリース契約を当社と結んだのである。このことは民法の共同不法行為に当たる可能性があると知った私は攻勢に出て粘り強く交渉を望んだ。

裁判官には手紙と弁舌で不法行為の被害者であることを強く主張し訴えた。しかも、乱暴にも弁護士を雇わず私一人で交渉を続けた。結局、和解することになった。

リース会社の担当課長は共同不法行為が表に出ると社内でまずいことになると考えたらしく、交渉の結果、当社が五百万円を支払うことで決着した。

その後、驚いたことにコンピューターを売った英会話会社から年末に一千万円が振り込まれてきた。

実は、この会社にも何度も訪問して粘り強く一千万円を返すように交渉していたのである。したがって金銭的には損害はなかった。二年掛かったが、この事件は得るものが多かった。

社長と個人的に親しいと思ってもビジネスをする時は私心を捨てて慎重に判断し是非を決めること。そしてリース契約とレンタルの違いを理解し、安易に契約をしないこと。こちらが客観的に正しいと判断した事件には、情報を整理して諦めず果敢に粘り強く交渉すること。

これらの気づきは私に反省する機会を与えてくれて、その後の危機管理に大いに役立てることができたのである。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『復活経営 起業して50年 諦めないから今がある』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。