13.筍をかじる薫

朝掘りの筍

朱雀院は、自分が出家するにあたって、鍾愛していた娘女三の宮を光源氏に託しました。源氏なら娘を幸せにしてくれるだろうと朱雀院は思ったのです。

ところが、源氏は女三の宮をさほど愛してはくれませんでした。

更には、女三の宮自身が、柏木青年との密通事件を起こしたこともあって、彼女は出家を決意、父朱雀院は涙ながらにそれを認めたのでした。出家した女三の宮の元に、父朱雀院から、心尽くしの山芋と筍が届きました。

その筍を見つけて、薫(女三の宮の密通事件の結果生まれた子)が、寄ってきます。薫は、表向きは源氏の晩年に恵まれた息子です。

(薫は)わづかにあゆみなどしたまふほどなり。この筍の罍子(らいし)に、何とも知らず立ち寄りて、いとあわたたしう取り散らかして、食ひかなぐりなどしたまへば、

(源氏)「あならうがはしや。いと不便なり。かれ取り隠せ。食物に目とどめたまふと、もの言ひさがなき女房もこそ言ひなせ」とて笑ひたまふ。

(横笛の巻)源氏は自分の子ではないと知りつつも、この幼子に愛情を抱いており、ここでも、抱き上げて話しかけています。筍を隠せと言いましたが、薫は筍を握ったまま抱かれて、よだれをたらしています。

御歯の生ひ出づるに食ひあてむとて、筍をつと握り持ちて、雫もよよと食ひ濡らしたまへば、

「いとねぢけたる色好みかな」

とて憂き節も忘れずながらくれ竹のこは捨てがたきものにぞありけると、ゐて放ちてのたまひかくれど、うち笑ひて、何とも思ひたらず、いとそそかしう、這ひおり騒ぎたまふ。(横笛の巻)

王朝時代の人々にとって、春の山野に自生する筍や蕨は貴重な食べ物だったと思われます。

蕨は、宇治十帖で、山の阿闍梨から、山荘にすむ姫君に送られたと出てきます。

※本記事は、2021年1月刊行の書籍『源氏物語花筐――紫式部の歳時記を編む』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。