中国による攻勢


この20年間、中国はインド国境でさまざまな示威行動を試みています。最近では2020年5月にインド、ラダックで印・中の両軍による殴り合いがあり、6月には死者を発生させる対立が勃発しました。

過去を振り返ると、1962年に中印国境紛争があり、2006年には中国大使がアルナチャルプラデーシュを中国領であると宣言、2017年にはドラクム地方に道路建設を開始しました。ドクラム地方は、インド・ブータン・中国が接する地域であり、印・中2国間に緊張が走りました。すでに中国領チベットからドラクム地方までの道路は完成済みとの報道もあり、そこからインド領土を越えて中国の友好国バングラデシュの産業道路が完成すれば、中国は一気に大陸経由でインド洋へと出ることができるのです。

それに加え、習近平国家主席が主導する「一帯一路」構想に基づき、中国はインド洋への出口を確保するため、インドの宿敵パキスタンに猛烈なアプローチを展開しています。中国西部の新疆ウイグル自治区にあるカシュガルとパキスタンのグワダル港を結ぶ中国・パキスタン経済回廊の開発計画には、すでに540億ドルが投じられているとの報道もあります 。

さらに中国は、中・パ経済回廊以外にもインド洋への出口を模索しており、ミャンマーでの道路建設構想などもあるようですが、やはり有力筋では、バングラデシュ経由のインド洋進出が考えられます。

また視点を移すと、バングラデシュの北部に位置するインド領は細長く東西に延び、その形状から「ニワトリの首」と呼ばれることもあります。「一帯一路」の観点からすると、「ニワトリの首」は中国からバングラデシュに抜ける途上にあるため、前記したアルナチャルプラデーシュを含むこの地をめぐって、インドとの摩擦は大きくなるとも見込まれます。影響の悪化によっては、カシミール問題とはけた違いの規模での実害をインドにもたらすでしょう。

 

中国はインドに比べ、経済規模が大きく貧困率が小さいのです。もし経済政策に失敗したなら、インドは国防において中国に対抗できるのか、という危機感が沸いてきます。そうしたこともあり、日本の地政学上におけるインドの重要性について、再認識する必要があります。

 
※本記事は、2020年12月刊行の書籍『インドでビジネスを成功させるために知っておくべきこと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。