いつもの癖でバーコードの頭を手でかきながら夕ご飯を一緒にと誘ってくれたのだった。アッキーママはとても嬉しくなり、すぐに緑色の封筒を開けた。そこにはオレンジ色の便せんにひまりの文字があった。

初めて見るひまりの文字だが、どこかいじらしく、愛おしくて、封筒ごとアッキーママは胸にギュッと抱えた。

田畑さんもようやくアッキーママに手渡すことが出来てほっと胸をなで下ろしているようである。秘密の手紙をひまりから受け取りハラハラドキドキしていた。

田畑さんはその手紙を見せてほしいなんて言う性格ではないが、アッキーママはあまりの嬉しさに、

「田畑さん、田畑さん、ねっ、これ読んで」

「いいのかい? そんな大事なものを、僕が読んでも大丈夫なのかい?」

見せてもらった手紙に田畑さんは、ほんわかした気持ちと同時に中学一年生のひまりから優しさと心配りをもらったのだった。

アッキーママへ

無理しないでね♥

それだけ、たったそれだけの七文字が書かれていた。

ハートマークの色はオレンジ色だった。ひまりはアッキーママの気持ちをすべて解っているような気がした。

アッキーママはよく、頑張ってね、早く良くなってね、元気を出してねと、周囲から言われることがうんざりするほどたくさんあった。それは田畑さんも同じであった。

頑張ろうとしても頑張れないのである。元気を出してねと言われても元気が出ないのだから病気なのである。無理しないでねの短いひとことにひまりの心からの優しさを感じて涙腺が弱くなったアッキーママだった。

田畑さんも本当に良かったねと言ってくれた。前歯一本も決して嫌いではないが田畑さんとの方が少女の頃に戻れるような気がしてならないアッキーママだった。

アッキーママはあまり長い時間、田畑さんの部屋の入口付近で話していたものだから、みんなからいぶかしげに、そして、にらまれている様な気がしてアッキーママはひまりの手紙を大事に持ちながら足早に七〇七号室に向かった。

恋して悩んで、⼤⼈と⼦どもの境界線で揺れる⽇々。双極性障害の⺟を持つ少年の⽢く切ない⻘春⼩説。
※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ずずず』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。