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ロースかつ定食

昼食の「ロースかつ定食」は昼限定のスペシャル価格で丁度千円ぽっきりだった。

地下からビルの外に出ると、涼しい秋の風が頬を撫ぜていく。ビルの中とは温度差がかなりあるようだ。この季節は未だコートを着るには早く、長袖の服でカーディガンを着用する位が程よい気候で美代子は好きだ。

今日の顧客は新丸ビルの中に事務所を構える歴史がある取引先で担当者は中丸さんという二十五、六歳前後の若いきれいな人だ。受付で来訪を告げ出てきた中丸さんに船荷書類一式を手渡し立ち話で別れた。

事務所への帰路、天気もいいので少し遠回りして皇居の堀端まで歩いた。すでにお昼時間は過ぎているのに未だかなりの人が皇居の周りをジョギングしていた。

よく見ると若い人が大半だが、中には外国人の人も混じり秋空の下、気持ちよさそうに走っていた。

東京にはいろんな職業の人が働いており、十二時を過ぎていてもその時間が彼らには休み時間帯かもしれないから……苦しそうに走っている人、仲間と並走しおしゃべりしながら楽しそうに駆け抜けていく人の人生を想像しながら大手町の方向へ、そして新聞社のビル手前を右に曲がり事務所にたどり着いた。

食後のいい散歩でエネルギーの消費にも繋がったと一人で満足していた。事務所に戻ると、受付の女性が

「北川さん、来客があります。職場に確認しましたらお出かけでそろそろ戻られる時間だったので3番の会議室にお通ししておきました」

「誰かしら」

「ご家族の方らしいですよ」

「ああ、そうですかありがとう」

美代子は職場へは戻らずそのまま会議室に向かった。

ドアを開けると「お姉さん」とちゃっかりテーブルの真ん中の椅子に座っていた。

「英子どうしたの、お仕事じゃないの?」

「今日、珍しく丸の内のお客まで打ち合わせに来たの、お姉さんの会社が近くだからどんな会社か覗いてみたかったの」

「びっくりするじゃないの、受付で家族の方がいらしていますと聞いたから、何か起こったのかと思った、心臓に悪いよ」

「それで目的は、ただ会社を見にきただけ?」

「もう一つあるの、ほら、お姉さんの彼がどんな人かひょっとしたら事務所でニアミスになるかなと密かに思ったの」

「英子は趣味が悪いわね、お母さんに何か聞いた?」

「いや、何も、何かあったの?」

「もう終わったことなの、あれからずいぶん経っているから」