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第二章 救世主

「ここはね、赤ちゃんが出てくるとき、すごく大きく広がるの」

「ウソだ」

人間の身体にいろいろ不思議なところがあるのは、幼い私も知っていた。実際、口だって二倍ぐらいには伸びる。しかしそこが赤ちゃんが出てくるとき大きなトンネルのようになるなんて、にわかには信じられなかった。

ぽかんとしていた私は、次の言葉でさらに驚かされることになる。

「でもね、普段はこうしてほとんど穴は見えないでしょう。それはね、男の人を喜ばせるためなのよ」

「え?」

驚きのあまり、まさに穴が開くほどその部分を凝視し続ける私に向かって、叔母は男女が営むSEXたるもののイロハをひととおり伝授してくれてから、何食わぬ顔で湯船に入ってくる。

「どうだった? 私の授業は」

充血してやや大きくなっている愚息をチラチラ見ながら、意地悪な質問をする。

「いや、その……」

恥ずかしいところを見られて真っ赤になった私はそれだけ言うのが精一杯だった。そのときの気持ちを正直に言えば、むしろ私はこれまで感じたものとは異質の不安を感じていたと言うのが正解かもしれない。

大人になると、仕事に就いて家庭を持って、子孫を作るためにそんなことまでしなければならないのか?

あんな醜いところに自分の大事な愚息を突っ込むなんていう営みは、幼心には少しも楽しそうには思えなかった。

つくづく私は大人の男が嫌いになった。男という生き物は、考え方が違う女性とは喧嘩をして傷付け合い、好きになった女性とはSEXを繰り返しているわけだ。

臆病な私だっていずれはそういう大人の男の仲間入りをする。そんな自分は、想像したくもなかった。

当然ながら、この夜のことは私と叔母の秘密となる。私にしてみれば、そんな恥ずかしいことは口にするのも憚られたし、叔母の方も何も語らなかった。

怒った母が次回から私を叔母ではなく祖母に預けるなんてことになってしまうのは、叔母としても望んでいなかったに違いない。

そう思うのは、私と二人でいるときの叔母はそれまで見たことがないくらい生き生きとしていたし、次に自分の出番が来るのをとても楽しみにしているようにも感じられたからだ。

十二月の初め。母が実家に帰った初めての金曜日のことである。二人で夕食を食べていると、ちょうどテレビから、多くの人で賑わうオープンしたばかりのスキー場の映像が流れてきた。

日本人に混じって、様々な国から来た多くのスキーヤーが楽しそうに滑っている。そのとき叔母は思ってもいないことを言い始める。

「見ていたら、なんか私も久しぶりに滑りたくなってきちゃった。哲ちゃんもスキーしたくならない?」

「スキーなんて、やったことないもん」