「僕も行っとく」

「私も」

なんだ、みんなもトイレに行きたかったんじゃないか。坂本龍馬という偉人は、人格者で才能に溢れ、人を引き付ける魅力があったのである。

(私はもうすぐ死ぬ。私の人生は完璧だった。正しいことをして、どんな誘惑にも負けず、生きてきた。たくさん努力して、たくさん悩んで、それでも金や女を求めず、人のために生きてきた。私の人生に何一つ後悔はない)

「ここはどこだ? 何もない。ここがあの世というところだろうか? お前は誰だ? 悪魔のような姿をしているが。ここはあの世ではないのか?」

「いかにも我は悪魔である。ここは極楽浄土とこの世の中間だ。我はお前が才能のある割にはあまりにもあわれな人生を送っていたから、もう一度生まれ変わって第二の人生をおくらせる機会を与えようと思ってここに来たのだ」

「私の人生があわれだって? どうしてあわれなのだ? たくさん勉強をして、医者になり、多くの人の命を救ってきた。それは私の生きがいだった。そして正しく生きたおかげで、これから極楽浄土に行けるそうじゃないか」

「お前は正しく生きすぎた。こんな時代なのだから人を殺すくらい良かったのではないか?」

「何を言っているのだ。私は医者だぞ」

「失礼、今のは忘れてくれ。まあ人を殺すのは悪いとして、お金をほしがるくらいは良かったのではないか?」

「まあそれくらいは良いかもしれないが、私の人生がどうしてあわれなのだ?」