二 日本文化と世界

●コラム1 『文化を大切にし、武力を持たないことが江戸時代三百年の平和をもたらした』

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―(聞き手、以下同)日本文化の根幹を成している、能やお茶などが完成を見るのは室町時代、十四世紀です。どのような時代だったのですか?

(著者、以下同)金閣、銀閣に代表される東山文化、北山文化、華やかなりし日本の文芸復興の時期です。

足利将軍は、特別に能を保護しましたが、その流れは戦国時代にも受け継がれ、武将はみんなたしなんだ。豊臣秀吉、前田利家、徳川家康の三人が同じ舞台に立ったこともあるんですよ。

戦をしているときでも、能は舞われていたのです。

―それくらい大切にされていたのですね。

能面ひとつとっても、裏に将軍家から「天下一」という名称、つまりお墨付きをもらうと、それは城や国を与えられるのと同じような価値があったのですよ。

江戸時代になると、江戸では観世、宝生、金春、金剛、全部の一座がお屋敷をもらって、お扶持をもらっていた。まあ、国家公務員みたいなものです。(笑)

当時は、将軍だけでなく江戸の庶民も江戸城に入って、能を鑑賞していたのですよ。だから、能は「拝見する」といって、商業演劇ではなかったのです。ただ、勧進帳というのがあってね、幕府が特別許可した、今でいう野外能ですが、これには何千人と入るので莫大な収入になった。

それから各藩もこぞって能役者を抱えていました。そして、職人を抱えて、装束や能面なども金に糸目をつけずに作る。それはすなわち藩のステータスであり、幕府ににらまれないようにするためだったのです。

要するに、幕府に対して武力で刃向かいませんよ、文化に軸足を置いていますよという意思表示です。それが鎖国の中で問題が起きない、江戸時代三百年という平和な時代をもたらした一つの要因なのですね。

―文化を大切にし、武力を持たないことが平和に繫がると。地球規模でそういうふうにならないものでしょうか。

現実問題としては難しいでしょうね。

たとえば、核兵器にしても、無いに越したことはありませんが、でも持ってないと抑止力にならない。日本は結局、アメリカと同盟を結んで守られているわけですからね。

とにかく文明が発達すると、人間社会を壊すことになる。

ただ、文化は、お互いどこか共有するものがあれば、理解を深めることができ、共生できる。国づくりにおいても、伝統文化に裏打ちされた日本人のいい部分を大切にして人間形成をすれば、それによって国内のみならず、外国ともちゃんと握手ができると思う。自国の歴史と文化を持っている国とは、気持ちは繫がりやすいと思います。

―人間世界の普遍を表す能が、世界平和に貢献できることを期待しています。

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『世を観よ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。