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第三話 バッジテストと初めて見る全日本フィギュアノービス選手権

「そんなに遠くない時期に本城麗子のライバルになるよ」

驚きながら剛を見て

「えっ、コーチ、何言ってるんですか? ライバル? 無理です」

「そのうちわかるよ。でもフィギュアスケートの素晴らしいところがわかっただけでもいいかな」

表彰式が始まる。1位は、103点でダントツ優勝の本城麗子。2位には昨年優勝した鈴木千夏が88点で入った。

次の日、観客席に剛、翼、三枝子が並んで座っている。

「健太君、2番目に滑るんだ」

「そうなのね。すぐね」

ノービスA男子が始まる。滑走順トップの純がスケートリンクに出てくる。冒頭はダブルアクセル。完璧でとにかく美しい。その後も次々とトリプルジャンプを決める。その度にため息や歓声が起こる。ステップシークエンスやスピンもそつがない。

そしてダブルアクセルから2回転のコンビネーションジャンプを決める。最後のスピンはシットスピンから足換えを行いキャメルスピンで終了。終了とともに拍手喝采となる。

「いい演技だったわね。一ノ瀬君というのね」

「凄くうまかった。でも本城さんのようには感動しなかったな」

「いいところに気づいたな。本城さんは、感情表現があって気持ちが伝わってきただろう。一ノ瀬君は淡々と演技をしていたからだ。フィギュアスケートはただジャンプしてスピンすればいいのではない。いかに感情を曲に合わせて伝えていけるかも重要なんだ」

「はい……」

次は健太だ。

「健太君、この雰囲気で滑るのは大変だな」

健太が出てくる。あきらかに雰囲気に飲まれ緊張している。曲が始まり、冒頭はやはりダブルアクセル。力が入り過ぎて着氷を失敗し、転倒する。パニックになって次の演技を一瞬忘れる。

次のジャンプは跳べなかったが、3つ目のジャンプである2回転ループと2回転トウループのコンビネーションジャンプは成功する。そしてステップとスピンもなんとか決め、最後の3回転ジャンプも成功する。憮然として立ち去る健太。

「健太君、残念だったわね」

と三枝子。

「一ノ瀬君のあとで可哀想だった」

「確かに順番がね」

「順番も勝負の1つだ。どれだけ自分の演技ができるかが重要なんだ」

男子の演技がすべて終わり、表彰式が始まる。