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再会

――陣痛が始まってからたった半日で生まれてきたその男の子は、皆を驚かせた。

その赤ん坊は、類まれなる美男子で、生まれながらにしてすでにチェのすべての特徴を備えていたのである。誰がどう見ても、キューバ革命の英雄であり、老若男女すべての国民から愛され尊敬されたゲバラに生き写しであったために、夫のホセ・ベルナルドが嫉妬したほどだった。

赤ん坊を見にやって来たパングレアスの住人たちも、もう少しでよからぬ噂を立て始めるところだった。

……だが、ドーラは身持ちの固い女として有名であったし、よくよく考えてみると、ゲバラたちが民宿に泊まったときには彼女はすでに妊娠していたわけなので、この赤ん坊がホセ・ベルナルドの子どもであることにまず間違いはなかった。

するとこの子にほかの名前をつけるのも何だかむしろ違和感があるような気がしてきて、一瞬立ち上った疑いの霧が晴れて納得した街の人々の無言の期待にも応えるかのように、一家はこの子にチェ・ゲバラのファーストネームであるエルネストという名前をつけることになったのである。

以来、こんな恥をかかされるのは二度と御免だと心に決めたホセ・ベルナルドは、全身全霊でドーラを愛するようになった。彼はドーラの心を奪った司令官(コマンダンテ)のイメージを追い出し、自分の存在を再び彼女の真んなかに根づかせるために、涙ぐましい努力をした。

時には嫉妬からくる脅しが入ることもあったが、エルネストの誕生以来、夫が目に見えて愛情深くなったというのはドーラも身に沁みて感じたという。

そして、夫のその英雄的な努力が功を奏したのか、それ以後に生まれてきた子どもには一人もゲバラの面影を見ることはなかった。ドーラは気持ちの奥深くに司令官(コマンダンテ)への想いをしまい込むことに成功したのだった。

……けれどもそれは、燃え残りの熾火(おきび)のように、その後の人生において、彼女のなかから消えることはなかった。

――そろそろ頭痛が始まりそうだ、とこめかみに指をあてたドーラは最後にこう言った。

「あんただけに秘密を教えてあげるけどね……、実を言うと、いまでも妊娠する夢を見るんだ。それはもちろん、チェの子どもだよ」