胸腰筋膜を調べるため、まず広背筋の腱の断端を、背中の真ん中へ向けてめくりかえす。広背筋腱膜は背部の下方、第7胸椎以下の棘突起から左右の腸骨稜を結ぶ、ひし形の広い範囲にある。

仙骨の背面部あたりの広背筋腱膜の下層に、胸腰筋膜が広がり、その胸腰腱膜に固有背筋が包まれているらしい。

続いて、僧帽筋と菱形筋の断端を、同じようにそれぞれ棘突起の方へめくりかえすと紙のように薄い、上・下後鋸筋(こうきょきん)が見つかる。

一体、こんな弱々しい、たよりなさそうな筋が何の働きをするのだろう。呼吸運動の補助、とテキストにあるが、本当に助けになるのだろうか。肋間神経の支配を受けると記載して有る。

次に固有背筋に移る。この名前は総称であって、特定の筋の呼称ではないらしい。背中に有る、脊髄神経後根の支配を受ける筋の総称らしい。

板状筋だの腸肋筋、最長筋、棘筋だの書いてある。板状筋・最長筋は頭部と背部を結ぶ筋肉であるが、特に最長筋は仙骨後面と腰椎棘突起より起こり、脊柱のほとんど全長を縦走して乳様突起までを結ぶ長大な筋肉である。

また、腸肋筋・最長筋・棘筋は脊柱起立筋と総称する、とも書いてある。両側のこれらの筋群が収縮すると、脊柱を後屈して起立している姿勢にする作用が有るらしい。

各椎骨の左右の横突起・棘(きょく)突起から別の複数の椎骨の横突起・棘突起に幾何学的に筋肉が連結する筋群も固有背筋で、横突棘筋群と総称される。これらは、立体的に交差して、複雑にはり巡らされている。

テキストには、昔の帆船でロープがマストとマストに張り巡らされたような図が提示されて、横突棘筋の構成、と題が添えられている。(*横突棘筋 図)外からは見えない皮下にこんな造型の美が隠されているとは、おそらく誰も想像もできないだろう。しかも、誰もが人間である限り、平等にこの秘密を持っている。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『正統解剖』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。