「ちょっと注目~! 今から片付けを兼ねて、今日のゲスト臼井佐和さんのドラムソロつきのドラムの解体ショーをやりまぁ~す!」

えっ? という顔でキョトンとしたサワと目があった。

なんだそれ?

聞いてない聞いてない! 首を振るサワ。

数秒、下を向いて考えていたが、顔を上げたときには、いたずらっぽい笑みを浮かべていた。

よぉーし、やったろ!

サワの声が、聞こえた気がした。一瞬、見つめあう。

無茶ぶりだけど、サワならやれる。思った俺の声が聞こえたかのように、サワが小さくうなずいた。

「始めていいの?」

笑顔で訊くサワに、逆にボーカルの山口が戸惑った表情。

「えっ? う、うん」

言い終わるか終わらないかのうちに、スネアとタムの六連符連打がはじまった。さっきまでの演奏に輪をかけてパワフルだ。

ドラムソロって、単なるリズムキープと違ってフリーに叩ける反面、叩く奴のセンスや技術が問われるなかなか厄介な代物だ。メロディが無いぶん、聴いてる人達をいかに退屈させないか、長すぎてもダメだし、ドラマー本人が完全没入してしまってるのに観てる側は置いてきぼりで、「早く終わんねーかな…」なんて構図も、結構あるあるだ。

俺の先生に以前聞いたときは、殆ど手癖というか、自分が持ってる引き出しから集めてその日のフィーリングで繋げる感じ、と言っていた。

格好よくみせるにはやっぱセンスなんだな。センスない奴がやっても只のドラムの個人練習になっちまう。

サワのは、まるで今日このお題を振られるのをわかっていたかのように、表情は真剣だけれども時折、ふわっと笑みを浮かべつつ、普段よりも高速なタム回しやパラディドルで観てる俺たちを圧倒した。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『人間関係貧乏性』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。