何度も高津は「ありがとう」を繰り返した。自然に涙があふれてきた。今までの悲しい涙ではなく感動の涙だ。

「花ちゃんだ! 花ちゃんの生まれかわりだ!」

「花ちゃんの言っていた、被害者意識を持っちゃいけないってこういう事だったのか……。ハッピーニューイヤー! おめでとう21世紀!」

少し照れながら、まだ手を振り続けているかぐや姫にこう返した。素直すぎる程、感動の瞬間だった。

その朝、仕事を終え、帰路につく途中、すぐに帰ったのではもったいないので海を見に行く事にした。東の空を見ると、もう9時過ぎなので、初春の太陽は、すでに高く上がっていた。

「快晴だ。初日の出じゃないけど、新世紀、初めて見る太陽だ。なんてすがすがしいんだろう。花ちゃんに、そしてかぐや姫に俺は励まされたんだ。人の心は温かいものなんだ。もう、嫌な想い出ばかりの20世紀は終わったんだ。新世紀なんだ。希望を持って生きていくんだ。それでいいんだ」

21世紀の始まりを告げる太陽と東京湾の海はすがすがしかった。高津は、防波堤沿いに歩いた。元旦でにぎわう東京おとぎの国と違い人影はなかったが、テトラポットで釣りをやっている人が何人かいた。そのうちの一人に、珍らしく自分から声をかけてみた。

「何を釣っているんですか?」

その釣り人は、

「カレイだ」

と答えた。それだけの会話だった。高津は今までの自分とは違っていた。その光景を見て、

「人は目的を持って生きているんだ。花ちゃん、俺は強く生きていきます!」

と誓った。そして、空に向かって、大声で歌った。

♫見渡す限りに広がったあの空を見よー隣りの国まで広がったあの海を見よー。ひとまずすべてを忘れてしまったー。正しい心で明日に向かった。僕らは海と青空に誓ったー♪

静かな、穏やかな、そしてどこまでもすがすがしい新世紀の幕開けであった。
 

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『花とおじさん』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。