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真相­―ヤメ検が暴く

それもいずれ弁護士の仕事による稼ぎがあるとの期待から、大して気にもかけなかった。

ところが、こうも事件等の依頼がない状態が続くと、お金は出ていくばかりだ。

事務所の家賃、事務機器と家具のリース代、弁護士会の会費、その他通信費、光熱費等で毎月二〇万円以上の支払いだ。それ以外に事務所をオープンして法律実務の書籍類を揃えるのに三〇万円以上出費した。

あれよあれよという間に、運転資金の二〇〇万円も残りが心細くなる。

ある日、妻がこぼした。

「今日、郵便局に行って通帳の記帳をしたらびっくりやわ。マイナスになっているじゃない。郵便局の人に聞いたら、貯金の残高がなくなっているというのよ。初めてのことや。ほんで、急いで銀行でお金を下ろして郵便局の口座に入れたわ。月々の給料が入ってこないというのはこういうことなんやね」

我が家では、郵貯の口座が長い間、生活口座となっていた。検事をしていた当時は、この口座に月々の給与が振り込まれていた。最高検察庁に勤務していた東京での単身赴任中もよくその口座から生活費を引き出していた。その度に残高を見ても常に数百万はあったものだった。

この先、本当に仕事が入ってくるのだろうかと不安になる。

これまで検察組織の中にいて、検事をしていた当時にはまったく考えたこともないことだった。自分で事業主として仕事をするというのはこういうことなのだと改めて思い知る。

外からかかってくる電話には自ずと敏感になる。事件の相談、依頼ではないかと。

しかし、かかってくる電話は、弁護士会からのもの以外は、やたらとホームページ、ポータルサイトの利用といった宣伝広告の勧誘、事務用品のセールスといったものばかりだった。

事務所を開設してしばらくしたころ、インターネットで「無料でホームページ作成」の手引きに従って四苦八苦しながら「丹前法律事務所」のホームページを作成し、公開した。

また、営業で訪ねてきた営業マンに乗せられて、NTTのタウンページに事務所名、電話番号を掲載した。その掲載料もばかにならなかったが、営業マンからは、「先生、この広告で事件依頼を二、三件受ければ、すぐに元手を取れますよ」と勧められ、その気になった。

こういう業者は、新規に事務所を開いたところを実に目ざとく見つけ出して営業をかけてくるものだと感心する。

弁護士会以外のセールスものは、ほとんどが市外局番だった。

そんな中、丹前は妙な電話を受けた。