ヒップホップ・ドリンク


私たちは、Yellow AlizeとHennesseyのボトルを手にしたまま場所を変えようと再び通りに出た。これからBの従兄弟のCrib(家・部屋)へと移動する。自称レイシストではない彼と、酒代を支払ってくれた男性とはここで別れ、私たちはLiquor Store とは反対の方向へと進む。通りに沿って、高層のプロジェクトが延々連なる。2ブロック目を過ぎたあたりで、ビルディングの敷地内へと入った。

「緊張してる?」

Bが私に尋ねる。

「ううん。大丈夫。プロジェクトに住んでたことあるし。」

そう答えたものの、全く緊張しないと言えば少し嘘になるかもしれない。プロジェクトは独特の雰囲気を放つ。このレンガ造りの巨大ビルディングには、赤ん坊から一人暮らしのお年寄りまで、あらゆる世代の人々が暮らしている。子どもをたくさん抱えた大家族があれば、10代の若い夫婦もいる。

仲間と部屋をシェアしながら生活している若者、アルコールやドラッグに依存している者もいる。一般社会で働く者もいれば、ギャングやドラッグの売人もいる。平日の夜は多少、静けさが訪れるものの、平日の昼間や、特に週末は24時間、人々の喋り声や笑い声が絶えることはない。すべての雑音をかき消すほどのミュージック音が、しばしば振動をともなって響き渡る。生ゴミと小便、Weedのにおいは、もはやプロジェクトの生活臭だ。

時間に追われているような忙しさはなく、ゆったりとした時間がここには流れているように一瞬感じられる。それでも、止むことのない生活音のなかで、「何かが起こり得る」可能性をつねに意識しながら人々と目を合わせ、言葉を交わし合っていると、ある一定の緊張感に、ずっと支配されているような気持ちになり、落ち着かなくなるのだ。

大きなエントランスからビルディングの中へと足を踏み入れる。

“Yo, what’s up?”

ヒスパニック系の男性がBに声をかけた。2人は互いの胸の前で力強く握手を交わし合う。

エレベータのドアが開き、一斉に10人ぐらいの人が飛び出してきた。と同時に次々とエレベータ待ちをしていた人たちが中へと入っていく。私たちも彼らに続いて乗り込み、階数ボタンを押した。

従兄弟のCribは上階にある。そこに着くまでの間に、ほとんどの人がエレベータから降りていた。ここは16階建てで、1つのフロアに、約20世帯ほどが生活している。長い廊下をしばらく歩き、私たちは従兄弟のCribの前に、ようやく辿り着いた。