第16話 時間旅行

高くそびえる日東テレビ本社ビル。スタジオでは党首討論会が終わった。

「総理、どこへ行くのですか……」

「ちょっと、国民的人気歌手への表敬訪問」

シマは二枚目の秘書・家具屋弘人にウインクする。

「ホント勝手な行動をして、政治の世界は敵が多いのに困った方だ。まあ、私利私欲がないところが総理のいいところなんだけど……」

党首討論会が終わり、テレビ局のディレクターとアシスタントが会話をしている。

「浦総理降ろしもひと段落だな、今日の野党の攻めも全然迫力がない」

「ワンポイントの短期政権のはずが、もう1年か……」

シマは半年前、与党・民自党長老たちの策略で汚職の嫌疑をかけられ退陣寸前まで追い込まれ、自殺すら考えていた。

「汚職事件の噂も消え、アメリカとの関係はなぜかかなり良好。長期政権もあるかもよ。なんか誰かに操られているような……」

二人の政治談議は続いていた。

コンコン、シマは小早川さくらの控室をノックした。

「お久しぶり、エヘッ」

「浦総理……」

突然の総理大臣の登場に驚くさくら。

「おじゃまします、本当に涼子にそっくり」

「これ読んだよ」

バッグから便箋を出す。

手紙には

……ずっとあなたを見守り、応援してます。
前田 武

と書かれていた。

「前田武、菊池一等兵の婚約者、つまりあなたの実の父親、特攻で亡くなったはずだった……」

シマは静かに煙草に火をともす。

「調査の結果どうでした……」

さくらは尋ねる。

「わたしの力で、あらゆる機関を使って調査したが、やはり亡くなっている」

「なぜ……私は産まれて間もなく、私の母菊池の祖父と祖母に育てられました。昔から歌が好きで……祖父と祖母も数年前に亡くなり、私も今は天涯孤独の身です」

「私があなたのお母さんをよく知っている。8月6日のあの日、本当にすまないことをした……本来ならわたしが先に逝くべきだった。罪滅ぼしと言ったらなんだが……本当にいいのか……行くのか……戻れないかもしれないんだぞ」

「はい、結構です。この謎を確かめてみたい……」

「その覚悟が確かなら……屋上で待っている」

「テレビ局の……」

さくらはシマを見上げた。

風が舞うテレビ局の屋上、夜空に星が煌めいている。シマは夜空を見上げ煙草を吹かしていた。シマと小早川さくら、そして秘書の家具屋の3人が立っていた。

「シマさん、注文の品を持ってきましたよ」

大きいなリュックを下げ手には黒いケースを持ったアツシがやってきた。アツシは剥げ上がった頭を隠すためチェックのハンチング帽をかぶっている。

鈴木アツシ(43歳)、戦後日本を代表する自動車会社を一代で築きあげた。豊日自動車の社長だったが、先日、後進に社長職を譲り、自らは会長職に退いていた。

「おい、TENCHI。隠れてないで出てこい」

ビビビビ

突如、空間に海亀型ロボットのTENCHIが現れた。屋上床から1メートルぐらい浮いている。

「キャッ! これなんなの」

初めて見るTENCHIに、さくらは驚きを隠せない。シマはTENCHIを見た時のさくらの表情が、母涼子とそっくりなのを思い出し微笑んだ。

「お望みのメンバーを揃えたぞ、この3人で行く」

「ありがとうございます」

シマの言葉にTENCHIは丸い目を赤く光らせながら応える。

「これから、1945年(昭和20年)8月11日あなた達の希望する某所に行きます。くれぐれも勝手な行動は慎んでください」
 

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『浦シマかぐや花咲か URA-SHIMA KAGU-YA HANA-SAKA』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。