10.映画『NAPOLEON』の華やかな思い出

今復活! 幻の映画『ナポレオン』――と騒がれた作品を鑑賞したのは、1983年2月のことだった。

1927年作のサイレント映画。監督:アベル・ガンス。時代はトーキーになり、日の目を見ないまま埋もれていたもの。それがアメリカのフランシス・コッポラによって復元され、彼の父カーマイン・コッポラが音楽をつけ、4時間にわたる映像の交響楽となった。福岡での公開を前に、文化人の方々と一緒に東京へ映画鑑賞に行き、それを福岡のテレビと新聞で宣伝するという仕事をいただいた。

当時大学4年、卒業間近だった。3カ月前に初めて自費出版した本のことで取材をしてくださった西日本新聞の女性記者の方からお話があり、大学最後の試験日、選択科目の臨床心理学の試験を捨てて、上京した。

大学の後期試験中だというのに、図書館に通ってはナポレオンとフランス革命に関する数々の本を読み、その時代を調べ、鑑賞に臨んだ。

日本武道館。18時開演。一万人収容の観客席。その招待席に着く。入場料はS席8,000円。主催は資生堂。後援外務省、フランス大使館、そしてフジテレビ系の5局とヘラルド・エース(現在のアスミック・エース)。30分の休憩をはさんで二部構成。

会場は立ち見の人もいてびっしり。久米宏さんが挨拶、指揮者のカーマイン・コッポラ氏(当時72歳)を紹介された。

「ABEL GANCE'S NAPOLEON」と字幕が出て始まった。10歳のブリエンヌ兵学校の雪合戦シーンから、27歳でイタリア遠征に赴くまでのナポレオンが描いてあった。めまぐるしい画面の動きに飽きることはなく、モノトーンとフルオーケストラの迫力に圧倒され、個性の強い適役の俳優たちの名演技に、時の経つのも忘れ、自分もその革命の時代に生きた一人であるかのような錯覚さえ覚え、ナポレオンの世界に引き込まれていた。

無声映画の時代に、こんなにも迫力がありさまざまな技巧を凝らし、今の時代にも古さを感じさせない斬新な大ロマンを作った亡きアベル・ガンス監督。演じた俳優さんと4時間もタクトを振り続けたカーマイン・コッポラ氏と新日本フィルハーモニーの方々へ、感謝と賞賛を込めて大きな拍手を送った。ものすごい満足感で会場を出たことを覚えている。

スタッフの宿舎であるホテルグランドパレスの17階に泊まり、運営事務局主催の打ち上げパーティにも参加させてもらい、資生堂、テレビ局、電通、ヘラルド・エースの方、カーマイン・コッポラ夫妻とご一緒した。ほとんど男性で女性は私たち一行の3人と外国の方1人、通訳と他1人だけ。「私みたいな者が、こんな場にいていいのだろうか」と気がねしながらも後ろの隅っこの方で豪華な雰囲気を満喫した。

若き日の華やかな一場面だ。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『思いつくまま』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。