月夜野姫

巫女はこの魔境神社の結界から外に出ることはできない。それは自分の宿命だと思っている。だから巫女は、この魔境神社に訪れる人を待っている。

ある時の夕刻。一人の和装姿の艶やかな女が訪ねてきた。

巫女は鳥居の上に腰を下ろして女を見ていた。女は拝殿に向かい、

「私は月夜野姫と言います。しばらくこの地に滞在いたしますので、この境内で寝泊まりさせてください。お願いします」

と深く一礼すると、鳥居に向きなおった。

「よろしいですよね、巫女さん」

と問いかけてきた。

「はい、どうぞ」

巫女は、ただただ即答した。

「ここは、この世と魔界の境界にある神社なので……」

「ええ、知っています。この付近で私の元一族がご迷惑を掛けているという噂を聞いたものですから……」

「一族ですか?」

「はい、私は幼少の頃、伏見稲荷の白狐の一族でしたが、拉致されて魔界の妖狐一族に育てられました。私は成長し、次第に力を身に着けて、魔界の主様の特命を受ける特務機関に配属され、主様の信頼も得ていたのですが、それをねたんだ妖狸一族は、伏見稲荷の筆頭様の暗殺計画を主様に進言した。

いざ実行に移す段になって、妖狸一族の長が、暗殺計画の情報を伏見稲荷側に流し、計画は失敗。当時、長であった兄も一族の多くも死に絶えました。怒りに震えた私は、裏切り者の妖狸一族の大半を殺しました。

結局、その責任を取る形で、魔界を追放された。私が、死に場所を求めてさまよっていた時、伏見稲荷の筆頭様から、この世界に散らばり、生き延びている妖狐一族を再結集する命を受けたのです」

「よく分かりました。どうぞ、拝殿を使ってください」

「ありがとうございます。巫女さん、あなたのお名前は?」

「キキョウと言います」

夜の拝殿。キキョウと月夜野姫が語り合っている。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『眷属の姫』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。