そのボールは娘が何処からか調達してきたバスケットボール。赤、青、白の頑丈ゴムボールである。ショーはこのボールをいたく気に入った。朝から晩までペタペタとこのボールを床にぶつけては楽しんでいる。

このマンションのリビングはフローリングタイプの床なのでボールが床に叩き付けられる度にペタペタと気持ち良い音がする。その音が気に入ったのかは定かではないが朝早くから夜遅くまで暇を見つけてはずっとペタペタとやっている。

まさかそれが隣人とのバトルに発展すると思いもよらなかった。その電話は、とある日曜日の朝突然やってきた。電話の主は隣人の主婦A子であった。

最初に電話を受けたのは妻。電話の内容は音がうるさいからなんとかして欲しいとのことであった。最初私たち夫婦は何のことか分からなかったが、すぐ隣でペタペタやっているショーを見たら合点がいった。

ショーはフローリングの床にペタペタとボールを当てて楽しんでいたのである。私はすぐ「ショー、ボール遊びは終わり、止めなさい!」と言うが全然止めそうにないのでボールを強制的に取り上げた。

その瞬間ショーはパニックになった。ヒーという悲鳴のような声をあげたと思ったら完全にパニックに陥った。自分の頭をバンバン叩き出したと思ったら自分の右手の甲を思いきり噛み出したのだ。

こうなると手のつけようのないショー。私は思いきりショーを抱きかかえ感情の鎮まるまで待ち続ける。するとショーは血の滲んだ右手の甲を見せ、ほらお前のせいでこんなになったのだと言わんばかりのようである。

ショーの場合は他人に危害を加えることは絶対しない。中には他人に危害を加える児童もいるので、これはこれで少しは救われている。全てのマイナスのエネルギーは自分に向かっていくのだ。

つまり自傷行為という奴である。しようがないのでショーが寝ている隙に天井近くの格納庫に隠したりするが、何故か探し当てていつの間にかペタペタやっているのである。

それからも息子がこのボールをペタペタやる度に隣人から電話がかかってきた。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ショー失踪す!』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。