当院における貴腐死病の一例

A case of Noble Dry Disease in our hospital

「とある研究会での発表抄録」

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緒言

稀な疾患である貴腐死病(NDD:Noble Dry Disease)の一例を経験したので報告する。

症例

患者は28歳男性。公務員。飲酒、喫煙歴なし。未婚。既往歴、家族歴に特記すべきことなし。

現病歴

2020年5月突然の倦怠感にて近医(H内科医院)を受診し、上気道に炎症がなかったにもかかわらず風邪(急性上気道炎)の診断で投薬される。

しかし症状が悪化したため「五月病ではないか」と言われ当院受診となった。体重減少、脱水、飴のような血液濃縮(キリストの涙サイン陽性)、芳醇な口臭により貴腐死病の疑いにて直ちに隔離病棟へ入院となる。

届け出を介して厚生保健省内にて専門家による調査団が組織され直ちに当院に派遣された。診断の結果は亜急性本態性進行性ある意味悪性脱水症(貴腐死病)であった。

貴腐死病の治療権は診断病院にあるので当院で治療することが認められた。当然のごとく一切の投薬は厳しく禁じられているため、少量の飲水と体位変換以外の治療をしないまま発病から13病日で患者はミイラ化して死亡した。

この時を待ちわびていた専門家チームによって直ちに体内の全血液が回収され、遠心分離された後、血漿はプログラム・フリーザーを用いた超緩慢凍結法でマイナス196℃に凍結され、厳重なセキュリティー下の液体窒素タンクに保存された。飴色の芳醇な血漿はわずか10mL(貴薬にして小児5人分、成人3人分に相当する量)であった。

考察

貴腐死病は言うまでもなく貴腐ワインを作る貴腐菌が人体に感染することによって引き起こされる疾患ではない。

しかしミイラ化した遺体が貴腐ぶどうにそっくりの干しぶどう状であることからその名が付いた。原因は不明であるが、人畜無害で清廉潔白な成人に発祥しやすいと言われている。その点では当症例も例外ではない。

患者は飲酒もせず、喫煙もせず、博打もせず、喧嘩もせず、童貞であった。これらは貴腐死病の危険因子であると考えられる。病態は高度の脱水によってミイラ化して死亡する致死性の疾患であるが、その血液からはあらゆる疾患に対する特効薬となるノーブル・ワクチン(貴薬)が精製されるため「神の恵み」と言われている。

患者は現代の生け贄とされ、遺族に対しては国家から高額の慰謝料が、診断治療病院には高額の研究協力金が支払われる。血漿は凍結保存され、保存場所は国家機密となる。感染性はない。故意に貴腐死病を作ろうとするあらゆる試みは失敗している。

現在までのところこの疾患の唯一の問題点は、患者の人権がないことである。