⑤ラガード(Laggards:遅滞者)

新商品の購入には関して最も保守的な伝統主義者です。世の中の動きに関心が薄く、流行が一般化するまで採用しない集団で、中には、最後まで不採用を貫く者もいます。市場全体の約16.0%を構成します。私はいまだにガラパゴス携帯電話を使用しており、スマートフォンやiPadを採用していませんので、ラガードになります。医師であれば、病院の勤務医から開業医まですべてに散在しています。自分の専門領域以外にはあまり興味がなく、多くの場合、昔から使っている薬剤を処方します。必要に迫られない限り、新しい薬剤を使うことはありません。したがって、マーケティングコミュニケーションの対象とするには非効率な層ですのでMRの情報提供の対象者としても合理的ではないと考えます。

ロジャースはイノベーターとアーリーアダプターの割合を足した16%のラインが、商品普及のポイントであることを指摘し、これを「普及率16%の論理」として提唱しています。イノベーターはその製品が実用的であるかにかかわらず、目新しさを支持して購入する層であるため、多くの人が共感するかは別です。

一方、アーリーアダプターはその製品が提供する新しい価値や実用性に着目して購入するため、このオピニオンリーダーとも呼ばれる層に支持されて初めて市場に受け入れられたと言えます。一般にアーリーアダプターは社会において他の消費者への影響力が強いと言われます。それゆえアーリーアダプターへの対応が重要だと言われています。またこの「普及率16%の論理」に対してジェフリー・A・ムーア(GeoffreyA.Moore)は、ハイテク産業の分析から、アーリーアダプターとアーリーマジョリティとの間には容易に超えられない大きな(Chasm:キャズム)があることを示しています。

そのため、アーリーアダプターを捉えるだけでは不十分であり、アーリーマジョリティに対するマーケティングも必要だという「キャズム理論」(図表5-2)を説いています。医薬品でもこのキャズムを超えられなくて市場から消失していくものも多いわけです。

※本記事は、2017年12月刊行の書籍『MBA的医療経営』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。